職種別賃金が浸透しなかった理由

このように見てみると、主要国のほとんどは、職務を中心に置いた賃金体系であることが分かります。

日本以外は、職種別賃金が主流の考え方であるといってもいいでしょう。職種別賃金とは、職種ごとに賃金水準や賃金体系を変えるしくみのことです。

では、なぜ日本企業では、職種別賃金が浸透しなかったのでしょうか?

「上場企業の約2割が導入」

社会経済生産性本部(現・日本生産性本部)の2006年調査による、職種別賃金の実施状況です。サービス業に限定するとやや導入率は上がるものの、逆に製造業などでは2割を切る水準となってしまいます。大手メーカーでは、工場部門を子会社化するなどして賃金格差を設けていたりしますが、中堅以下の製造業では全社員の給与制度は共通、という企業が多いのです。その後も、管理職への役割給強化といった動きはあったものの、職種別賃金が広まる流れにはなりませんでした。

同調査では、導入予定がない企業に、導入しない理由を尋ねていますが、

「柔軟な異動配置やキャリア転換などができなくなる」
「職種毎の市場が明確でないため賃金水準の設定が困難」

という回答が多く出ています。

導入企業においても、

「職種毎の市場が明確でないため賃金水準の設定が困難」
「賃金水準の低い職種の従業員のモラールダウンがおこる」

といった導入・運用時の課題が挙げられています。

日本企業の特徴の1つとして、職場ローテーションによる人材育成があります。「総合職」として新卒で一括採用して、さまざまな職場を経験させることで、ゼネラリストを育成しようというのです。その際、職種ごとに給与水準や体系が違えば、人事異動がしづらくなる。したがって、職種別賃金導入には躊躇してしまう、ということです。

言葉を換えれば、日本は「同一じゃない労働・同一賃金」の国ということになります。これは、国内では当たり前でも、海外では極めて不思議なことに映ります。たとえば、アメリカ人に「日本企業の多くは、営業マンも経理職や技術職と同じ給与表を使っている」と言えば、「そんなバカな」と驚かれることでしょう。