「借りたものは返す」ということは、私たちが常識的に共有している約束事といえる。しかし2008年6月、その常識を根底からひっくり返すような判決が最高裁判所で出た。いわゆるヤミ金融から借金していた債務者が、不法行為に基づく損害賠償を求めた裁判をめぐってのものだ。

本件の被告で「ヤミ金の帝王」として名を馳せた代表者は、全国3万人以上の債務者に年利数百~数千%で金銭を貸し付けていただけでなく、それで集めた約60億円の違法収益を、スイスの銀行口座に隠していたとして、組織犯罪処罰法違反に問われ、懲役6年6カ月、罰金3000万円の実刑判決を言いわたされた。

<p>ヤミ金融とは</p>

ヤミ金融とは

一方、ヤミ金融による金銭の消費貸借契約は、民事上も無効である。そこで、最終的にその金銭は誰に帰属させるべきか、民事裁判でもケリをつけなければならない。ヤミ金融から借金していた債務者が、一部を「返済」していた場合に、その債務者の「損害」とは何なのか、それが最高裁で問題となった法的課題だ。

たとえば、10万円をヤミ金融から借りていたが、みるみるうちに利息(と称されるもの)だけでも20万円まで膨らんだとする。そして、債務者は、その間に15万円を返済し(脅し取られ)たとしよう。そうして、債務者が原告として、借金契約の無効を主張し、ヤミ金融を相手取り「不法行為に基づく損害賠償」を求めたとき、賠償額はいくらまで認められるべきだろうか。

違法な利息である20万円は無効ということで、ヤミ金融業者に返す義務がないことは明らかだ。ただ「借りたものは返す」という常識を前提にすれば、すでに返済した15万円のうち、借金元本の10万円を上回る5万円のみ返還を求めることになる。

しかし、最高裁は、ここでいう15万円全額を債務者側に返還するよう命じた。債務者は元本も返さなくていいことになる。「ヤミ金融が最初に貸し付ける元本は、恐喝のために使う『犯罪道具』なのであって、そんなものを返す必要がない」と、司法が「ヤミ金融憎し」の態度を改めて明確にした判決といえよう。