高齢者住宅で孤独死が大量発生する可能性も
2006年4月に施行された改正介護保険制度によって、介護を必要とする高齢者の受け皿は、「施設」から「在宅」「予防」重視の介護に転換された。さらに、医療制度改革の一端で、療養病床が11年度末までに大幅に削減されることが決まったことも「介護難民」増加に追い討ちをかけている。
具体的には、38万床ある療養病床(医療型25万床・介護型13万床)が、医療型15万床を残して全廃することが決まった。これだけで単純に23万人の高齢者が行き場を失うことになる。削減分の高齢者は、老人保健施設、ケアハウス、有料老人ホーム、グループホームなどに振り替えさせる方針が示されているが、実際の受け皿の状況を見る限り、受け入れ態勢は十分とはいえない。
結果的に、高齢者の居場所は在宅以外に考えられない状況が見通せるのだが、「在宅介護」といっても、受け入れ可能な家がどれくらいあるのかを考えると、「介護難民」の解消は机上の計算どおりには進まない。
厚労省の設けた参酌基準(整備基準)によって、要介護者の37%以下を施設で受け入れる方針が定められたことによって、施設数の総量規制が行われている。公的な施設には3年以上の待ち時間が必要で数の不足が明らかでも、施設増加の見込みは低い状態だ。有料老人ホームも、この総量規制の枠内に算入されたことで、新規物件は少なくなっている。また、入所にかかる費用、月々の支払いを考えた場合、簡単に入所を決断することも難しい。
最近の傾向として、一般の賃貸住宅と同じシステムの高齢者専用賃貸住宅の建設ラッシュとなっているが、入居金が低価格である半面、暮らしのサポートをしてくれる介護サービスとの連携を考えると不安の残る物件が少なくない。デベロッパーと土地所有者が利回り計算のみで建築を行い、介護が必要になった場合の入居者の暮らし方を顧みないケースが増えれば、高齢者住宅での孤独死という最悪のケースが起こることも時間の問題と見られている。
現在、介護保険の適用を受ける要介護者の数は450万人を超えている。参酌基準に照らすと、このうち施設での受け入れが許される高齢者は165万人程度。単純に計算すると300万人近い高齢者が施設以外に暮らしの場を求めなければならない。その場所が、在宅だけというのでは、「介護難民」の増加に歯止めをかけることは難しい。
高齢者の1人暮らしは、06年時点で約410万世帯、夫婦2人暮らしは540万世帯を超えている。この数がさらに上昇することは間違いなく、こうした世帯では在宅での介護力はまったく期待できない。
介護給付の抑制を図る政策の方向性だけが推進され、具体的な処方箋は見えない。現状を打破するには、上手な介護・医療サービスの使い手になるしかない。介護を受け身で捉えるのではなく、積極的に助けを求めることが今のところ、唯一の対応策といえる。