「ストーリーの黄金律」は、人が感情移入しやすく、行動に駆り立てやすくなる物語のパターンで、次の3つの要素が含まれています。
<何かが欠落している、または欠落させられた主人公が>
<何としてもやり遂げようとする遠く険しい目標やゴールに向かって>
<数多くの葛藤、障害、敵対するものを乗り越えていく>
弱みを見せるほど説得力は高まる
2005年、アップルの創業者であるスティーブ・ジョブズがスタンフォード大学の卒業式で行ったスピーチは、多くの人を感動させました。その伝説のスピーチにも、この3つの要素が組み込まれていました。
大学を半年で退学したジョブズは、たまたまもぐり込んだ講義でカリグラフィーと出合い、その知識をいかしたコンピュータを作り、大成功を収めます。しかし独裁者となったジョブズは30歳で会社から追い出されてしまう。そこで彼は初心に戻り、映画会社などを立ち上げます。一方、ジョブズを失ったアップルは経営危機に陥り、彼に謝罪し、経営者として呼び戻します。「iPod」や「iPhone」でまたも大成功を収めますが、このスピーチの1年前に癌が見つかり、余命数カ月だと診断されました。ジョブズは自身の半生を振り返り、学生たちに「時間は限られています。だから、本意でない人生を生きて時間を無駄にしないでください。何よりも、大事なのは、自分の心と直感に従う勇気を持つことです」というメッセージを送りました。
動画を見ると派手な身振り手振りはありません。あらかじめ用意した原稿を淡々と読んでいるだけのように見えます。それでも挫折を乗り越えて目標に向かうジョブズの話に多くの人が引き込まれました。
こうした「ストーリーの黄金律」に当てはめた話し方は、誰にでも、どんな組織にも応用できます。自分を主人公にして、難しい目標に向かっていく気持ちや過程を、3つの要素に重ね合わせたストーリーにしてみてください。人の心を動かすのは、等身大の体験談です。格好をつけたり、自分を飾ったりしていてはダメです。自分の弱さや失敗を正直に話すほど、説得力が高まります。
部下の前で弱みは見せられないと考えるリーダーもいるでしょう。自分の弱さを語るには勇気が必要です。でもだからこそ、挫折を経験した人間が高い目標に向かって努力している姿に、人は心を動かされる。チーム全体に共感が広がり、物語を共有できれば、信頼関係が深まり、チームの結束は固くなります。