「お騒がせ男」外務大臣就任で欧州が騒然

国民投票に向けての選挙戦でジョンソン氏は離脱を英国に進言したオバマ米大統領には「ケニア人の血が入っている」から「大英帝国を毛嫌いしている」と大衆紙サンのコラムの中で書いている。オバマ氏の父はケニア出身だ。人種差別とも受け取られかねない表現だ。また、クリントン米民主党大統領候補については、2007年に「精神病院のサディスティックな看護婦のようだ」と書いたことがある。

ボリス・ジョンソンが自らを重ねて書いたともいわれる評伝、『チャーチル・ファクター』(プレジデント社刊)。イギリス国会議員が選ぶ夏休みの読書ランキングでも上位に食い込んでいる。

ジョンソン氏の海外政治家についての強烈な表現は米国だけにとどまらない。5月にはスペクテーター誌の中でトルコのエルドアン大統領に侮蔑的な詩を寄稿している。エルドアン氏をジョークの種にしたドイツ人コメディアンを擁護するための詩だったが、この中でエルドアン氏がヤギと性行為をしていることを示唆した。また、過去にはロシアのプーチン大統領を「情け容赦なく、人を背後で操る圧政者」と呼んだり、パプアニューギニアの人々を「食人風習と酋長殺しの傾向がある」と評したりもした。同様の例は枚挙にいとまがない。フランスではエロー外相が「ジョンソン氏については全く心配していないが」、国民投票の選挙期間中に「国民にたくさんの嘘をついた人物だ」とラジオ番組の中で指摘した。

同期間中、ジョンソン氏が率いた離脱派の「ボート・リーブ」は選挙用バスの車体にこんなスローガンを載せた。

「EUに払っている毎週3億5000万ポンド(約465億円)を、国内の医療サービスや教育費に使おう」

3億5000万ポンドという数字は非常に強い訴求力を持ったが、投票後、ボート・リーブとは別の離脱運動を行っていた、英国独立党のファラージ党首は数字が不正確だったことを認めた。実際の金額はこれよりもはるかに少なかった。

統合を推し進めるEUと第2次世界大戦で多くの犠牲者を出したナチスのヒトラーを同一視する発言をしたことも、ドイツやフランス、ほかの欧州諸国で大きな反感を引き起こした。英国内では、「ボリスで大丈夫か」という不安と懸念が存在し、米国では失笑され、欧州内では「嘘つき」と呼ばれたジョンソン氏は7月14日、外相としての第一歩を踏み出した。

(続く)

(AFLO=写真)
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