ネット炎上の中核にいる“スーパー・セブン”の存在
【為末】ごく一部というと、具体的にはどのくらいですか?
【山口】直近の1年間で炎上時にネットの書き込みをした経験がある人は、前述の4万人を対象としたアンケート調査で、約0.7%だったんです。その前に行った2万人を対象としたアンケート調査でも約0.5%と、いずれも少ない。
【為末】1フロア100人ずつのビルであれば、各階に約1人ずついるくらいですかね。
【山口】そうなりますね。その0.7%の人に参加件数を質問してみると、1件が32%、2~3件が34%、一方、11件以上は10%ほど。続いて1件あたりの書き込み回数を見ると、1回が35%、2~3回が34%と、この2つで大半を占めます。その一方で、51回以上が3%いました。
【為末】つまり、同じ人が何度も繰り返し書き込みをしているということですね。
【山口】その通りです。
【為末】例えば50回書き込む人が1000人いたら、5万のネガティブなコメントになるわけですよね。一方、1回しか書き込んでいない人が10000人いても、1万のネガティブなコメントにしかならない。
【山口】一部の人の意見が多数派に見えてしまう、というのがネット炎上の特徴なんです。
【為末】なるほど。少しずつ全体像が見えてきました。
【山口】ちなみに、この調査では11件以上の炎上に加担していて、最大50回以上書き込んでいる人が4万人中7人いました。『ネット炎上の研究』共著者の田中先生(慶應義塾大学の田中辰雄准教授)と私は、彼らのことを“スーパー・セブン”と呼んでいます。
【為末】スーパー・セブン(笑)。実際にはどんな人たちだったんですか?
【山口】1人だけ会社役員でしたが、ほとんどは無職でした。これは、ライト層まで含めた結果(係長クラス以上など)とは違いますね。そして、総じて年配の方でした。65 歳以上の女性もいましたね。アンケートの回答では「世の中は根本的に間違っていると思う」「自分は周りに理解されていないと思う」という選択肢をチェックする傾向がありました。
【為末】社会を否定し、自己を肯定する意識が強すぎるあまり、ネガティブコメントのリピーターになってしまうと。
【山口】そうですね。調査では「炎上は社会をよくしている」と考えている人の方が、1件当たりの書き込む回数が多い傾向にありました。ストレス解消のためにやっている人は、書き込む件数は多いけど、1件あたりの書き込みは少ないんです。
【為末】正義感からでもなければそんなに熱心に書き込めないですよね。ここのところ、炎上させる側も戦略的にというか、上手になっている印象を受けていて。「こうすればより拡散されるな」というテクニックは、炎上にも応用できると思うんです。
【山口】そういう観点で考えたことはありませんでしたがあり得ますね。
【為末】いずれにせよ、ネット炎上がごく少数からの批判であることはより明確にしたいですね。
【山口】はい。やっぱりこのようなリピーターがネット炎上全体の舵を取っているのは事実なんです。ネット炎上なんて、10人くらいいればできてしまうので。
【為末】たった10人で。
【山口】はい。もっと少ない例もあります。一方、為末さんのツイッターのフォロワーは今40万人くらいですが、その0.5%が不快に感じたとして、それだけで2000人です。彼らが数回リプライしたら、炎上ということになってしまう。しかし、残りの39万8000人は賛成しているかもしれないんですよ。
【為末】まさにサイレント・マジョリティーというわけですね。