「ネット炎上」とは、インターネット上で個人や組織などに批判・攻撃が集中する現象を指す言葉だ。それはときに言葉の応酬にとどまらず、行き過ぎると社会的制裁にまで発展する場合もある。実社会にまで影響を及ぼすようになったネット炎上現象。誰が、どんな理由で炎上に加担しているのか。ソーシャルメディア上の発言がもとで何度かの炎上経験をもつ為末大氏と、そんなネット炎上を学術的に研究する山口真一氏。炎の中と外、それぞれから見える風景を重ね合わせることで、見えてきた「ネット炎上」の実体とは――。
みんな一緒に沈んでいく快感
【為末】炎上に関して、最近ある人からアドバイスされて「なるほど」と思ったのは、「もう防災はあり得ない。これからは減災だ」ということです。ネット炎上はどうしたって発生してしまうものだから、そのときに被害を食い止めるために、日頃から自分の立ち位置に注意する、という発想ですね。
【山口】それはあり得ますね。ネット炎上しやすい/しにくいというのは、いわゆる“ネット人格”に左右されます。愛され系のネット人格を普段からつくり上げていれば、ちょっとミスをしても攻撃されない。一方で、いつも誰かを攻撃していたり、誰かに攻撃されていたりすると、愛され系と同じことをしても、ものすごく炎上してしまう。
【為末】その話題で思い出したのですが、元モーニング娘。の方と、綾小路きみまろさんです。このお二人は同じ時期に盗作騒動があったんですよね。
【山口】ありましたね。
【為末】そのアイドルの方は「すみませんでした」と謹慎したんだけど、きみまろさんは「申し訳ありません、魔が差しました」と言って、そのまま漫談を始めたという(笑)。
【山口】きみまろさんは愛され系だった、というわけですね。あるいは、それが許されるような空気感だったか。
【為末】インターネットって基本的に、エリート意識を嫌う空間ですよね。ふざけていたり、自虐的であったり、気取っていないことで愛される感じがあります。でも、それが強くなりすぎてしまうと、そこには真面目な人がいなくなってしまうとも思うんです。つまり、みんながお笑い芸人か、自称不良になってしまう。
【山口】なぜなら、それが一番減災になるから。
【為末】そうなんです。僕が中学生の頃、学校はヤンキーばっかりだったんですよ。そこでは真面目に勉強しているヤツがいじめられるんです。「もっと面白おかしく行こうぜ!」とか言ってからかわれる。「オレなんてもう人生おしまいだよ」みたいなことを言えば言うほど賞賛されるという空気がありましたね。みんなで一緒に沈んでいくことに酔っているような、僕は今のネットが時々そんな空間に見えるんですよ。
【山口】インターネット的な空気にばかり迎合していていいのか、ということですね。