選挙は商圏のエリアマーケティング

地方議員選挙など、複数当選する選挙の場合、有権者数と立候補者数、予想投票率を出せば、当確ラインは見えてくる。商圏のエリアマーケティングに通じるところがあるといえるだろう。

筆者は以前、知り合いから頼まれ、ある地方都市の市議選に関わったことがある。ある候補のオブザーバーを務めてほしいと頼まれたのだ。当時、その都市は人口約25万人、有権者数約19万人で、投票率は毎回40%前後。市議の定数30で、その時の立候補者は38人だった。トップは毎回5000票ほど獲得するベテランで、2位以下は2000票台。1800票が当落ギリギリのラインで、2000票獲れば安全圏とされていた。

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選挙事務所を訪ねて驚いた。静かなオフィスに事務局長と他のスタッフが数名いる程度だったからだ。マンパワーが絶対的に足りないにもかかわらず、事務局長は余裕の表情。聞くと「2000票は固い」と、胸を張った。名簿を見せてくれと言ったが、「今はない。だけど、安心してくれ」と、根拠が無い話を長々と続け、不安になった。

当の候補者は、駅頭でマイクを持つと、「日教組が日本の教育を悪くした」「愛のある体罰なら、容認すべきだ」と、自身の教育論を滔々と述べる始末。「駅前のカラス対策をやるとか、狭い道路の拡幅に積極的に取り組むといった、市民生活に沿った政策を言わなければ落選する」と、アドバイスしたが、聞く耳を持ってもらえず、結果は約800票であえなく落選した。

票を獲得するのは、かくも難しいのだ。その票固めに必要なのは、名簿である。後援会組織を作り、いわゆる支持者を作っておく。その名簿が基礎票の元になるが、支援してくれている県議の後援者名簿なども活躍するし、趣味の会の名簿なども役立つこともある。いろいろな名簿を精査し、積み上げていって、基礎票は出来上がるのである。

ある現職議員の選挙事務所関係者は語る。

「前回の選挙のデータを細かく分析する。各投票所ごとのをね。そうすると、ある地区はA候補が一番で、うちの候補は4番目。次の地区はB候補が強い。うちは10カ所で勝っていたけど、7カ所負けていた。そこで、その7カ所を重点的に掘り起こしていくんだ。地区のリーダーと仲良くなったりしてね。そうしないと、次は負けてしまう」

一つの投票所で1000票あったとする。そこで、120票しか取れなかったものが、300票になる。その積み重ねが必要なのだと、関係者は言うのだ。確かに、営業マンが月例の売り上げをどう上げていくかと考えた場合、一番弱いところの強化に当たるのが近道だということと通じている。