そこで「制度に甘えるな」「ぶら下がるな」という風潮が出てきたのですが、それは女性だけが悪いのでしょうか?
これは「両立して働き続ける女性などそれほど増えないだろう」と、日本企業全体の見積もりが甘かった結果ではないのかと思います。
制度がある以上、「斟酌して使うな」というのは大変日本的な文化ではないでしょうか。日本の企業の有給休暇の取得率は5割以下。しかし海外から観ると「お金をもらって休める休暇という制度があるのに、なぜとらないのか」と不思議に思われています。
また制度を使わざるを得ない事情もあります。それが長時間労働を見込んだ働き方です。
「時短を切ったとたんに、残業となれば、保育園のお迎えが間に合わない。時短を採り続けるしかない」という選択になってしまうのです。
長時間労働がない国では、長い育児のためのブランクはそれほど必要ではありません。フランスでは育児休職は3年。そして3年後に戻るポジションも以前と同じというように保障されている。しかし、キャリア女性は早くに復帰します。キャリアのブランクを最小限にとどめたいという事情もありますが、週の労働時間は35時間という規制があるからです。実際にパリのキャリア女性の家庭を訪問したところ、夕方は早くに帰って家族で夕食をとり、8時に子どもを寝かせるという生活でした。
資生堂ショックで見えた「女性に優しい企業の限界」
資生堂ショックとは何かを問うならば「女性に優しい企業」の限界です。そもそもの働き方が「残業込み」を前提としている職場の限界でもあります。
育休世代(2000年代以降、育休をとることが当たり前になった世代)がふえ、常に誰かが時間制約を抱えることが当たり前の職場となる。そうなると、「配慮」では乗り切れない「配慮の限界」がくるのです。
今後5年のうちに管理職世代も「介護」という時間制約を抱えるようになる。企業は「社員の誰もが24時間企業のために働ける。それ以外の社員はイレギュラー」という前提ではなく、「常に制約人材がある程度いることを経営のバッファ」として見込んでいかなければならないということです。