※本稿は、佐藤一磨『残酷すぎる幸せとお金の経済学』(プレジデント社)の一部を抜粋し加筆したものです。
法律の思わぬ影響を考える
私たちが生きている社会には、さまざまな法律が存在しています。
法律は一定の目的をもって施行されるわけですが、中には思わぬ影響をもたらす場合があります。
今回はその一例として、2016年4月に施行された「女性活躍推進法」を取り上げてみたいと思います。この法律は、国、地方公共団体、労働者数301人以上(2022年からは101人以上)の事業主に女性が活躍できる行動計画を策定・公表するよう義務付けています。
狙いは労働力不足や男女間格差の解消、そして、女性のさらなる社会進出の促進です。
この法律では、管理職に占める女性の割合の把握・公表が義務付けられています。さらに、同法では「女性に対する採用、昇進等の機会の積極的な提供及びその活用」の実施が求められているため、対象となる企業、国、自治体で女性管理職が増加したと考えられます。
女性活躍推進法で気になる2つのポイント
さて、ここで気になることが2つあります。
1つ目は、女性活躍推進法によって女性管理職の割合がどの程度増えたのか、という点です。
実は女性活躍推進法は10年間の時限立法であるため、その進捗状況の確認は重要です。女性管理職が増えるぶんにはいいかもしれませんが、女性管理職がぜんぜん増えていなかった場合、制度の見直しが必要となります。はたして法の施行以降、女性管理職割合は順調に増えているのでしょうか。
2つ目は、女性活躍推進法の男性への影響です。
管理職のポスト数は限られているため、女性の数が増えれば男性の数は減少します。つまり、女性活躍推進法の施行以降、非管理職の男性の昇進機会が制限された可能性があるのです。
これは、昇給及び昇進時期の遅れや、そもそも昇進機会の消失につながった恐れもあり、非管理職の男性にとってマイナスの影響があったと予想されます。また、日本の強い性別役割分業意識を考えれば、男性は家庭での稼ぎ頭であることが求められるため、昇進機会の低下は、男性に心理負担をもたらしたとも考えられます。
以上の点を考慮すると、女性活躍推進法の施行は、非管理職男性の満足度、特に仕事満足度を悪化させたのではないでしょうか。この点は気になるところです。
以下でこれら2つの疑問に答えていきたいと思います。