男性の仕事満足度は女性活躍推進法の施行によって低下
次に見ていきたいのが女性活躍推進法の男性への影響です。結論から言えば、女性活躍推進法の施行によって、男性の仕事満足度は低下していました(※1)。
図表3は、女性活躍推進法の施行前後の非管理職正社員の男性の仕事満足度の推移を示しています。これを見ると、女性活躍推進法の適用対象であった301人以上の企業及び官公庁で働く男性の仕事満足度は、2016年以降ガクッと下がっていました。これに対して、300人未満の企業で働く男性の仕事満足度は大きな変化を経験しておらず、法の影響がなかったと考えられます。
ちなみに、統計的な手法を用いて年齢、学歴、世帯年収といったさまざまな要因の影響を除去しても、女性活躍推進法の適用対象であった男性の仕事満足度が低下するという傾向に変化は見られませんでした。
また、企業規模をさらに分けると、男性の仕事満足度の低下は1000人以上の大企業で働く場合で顕著に見られることもわかりました。やはり比較的女性管理職が増えた企業で働く男性ほど、昇進機会が制限され、仕事満足度が下がってしまったと考えられます。
この結果は、女性活躍推進法の副作用と言えるのかもしれません。
女性の活躍推進は継続すべき
さて、この結果を男性の視点から見た場合、「けしからん!」となるかもしれません。これまで得ていたものを失い、不満が溜まっているからです。ただ、だからといって昔の日本の姿に戻るのは、難しいでしょう。
もし企業や官公庁の管理職が男性で占められていた場合、イノベーションが起きないといった経営上の課題が解決されないことに加え、女性の賃金が伸びず、男女間賃金格差が温存されることになります。男女間賃金格差が温存された場合、出産・子育ての際に相対的に賃金の低い女性にその負担が偏る合理的な理由となってしまいます。
出産後に増える家事・育児負担を誰が担うのかと夫婦で話し合う場合、賃金が低くて世帯所得があまり減らないほうが担うのが得策となれば、どうしても女性に負担が偏るでしょう。それは男性の「大黒柱プレッシャー」や「男性のほうがポジションが上であるべき」という価値観が温存し続けることも意味し、結局は男性の仕事満足度へのネガティブな影響が残ることにつながります。
このように夫婦で合理的に考えた結果、女性の負担と男性の心理的プレッシャーが偏る状況が今後も続かないようにするためにも、女性活躍推進策を推し進めることが重要です。
(※1)佐藤一磨, 影山純二(2023)「女性活躍推進法は非管理職男性の主観的厚生にどのような影響を及ぼしたのか」日本人口学会第75回大会(南山大学、2023年6月10日発表).
1982年生まれ。慶応義塾大学商学部、同大学院商学研究科博士課程単位取得退学。博士(商学)。専門は労働経済学・家族の経済学。近年の主な研究成果として、(1)Relationship between marital status and body mass index in Japan. Rev Econ Household (2020). (2)Unhappy and Happy Obesity: A Comparative Study on the United States and China. J Happiness Stud 22, 1259–1285 (2021)、(3)Does marriage improve subjective health in Japan?. JER 71, 247–286 (2020)がある。