赤土状の鉄鉱石は水分を含んでいる。陸揚げが遅れた商船三井のバルカーは船底に鉄鉱石の水分が溜まってブルドーザーも入れない状態だった。解決のメドが立っていないのに、港湾局は霧で増えた滞船にあせり、早く出ろと急かす。
数百トンの鉄鉱石が液状化して荷揚げできず、次の荷も積めない。このまま出港したら1日に数千万、いや玉突きでほかの計画も狂えば、数億円の大穴が……。花崎は、蒼ざめた。
「まず現場の代理店に、出港の手配をせず、港湾局と話してほしいと説得して、時間を稼ぎました。その間に東京側が船長と策を練った。で、揚げた鉄鉱石のうち数千トンを船に戻して水を含ませ、荷役ができる状態にして、一気に陸揚げしました。なんとか港湾局の指示どおり次の満潮で出ました。とても1人じゃ解決できない。チームワークです」
中国の粗鋼生産量は世界の4割近くを占め、今後も増え続けるとみられる。豪州やブラジルの鉱産地と中国を結ぶ航路は海運会社のドル箱に変わった。6~7年前、17万トン以上のケープ型バルカーと呼ばれる大型船の用船(借船)料は1日1万ドル程度だったが、昨年11月には過去最高の25万ドルを突破した。
商船三井は、宝山鋼鉄と15~25年の長期契約を七系列締結している。いずれも豪州やブラジルと中国を結ぶ航路で、超大型の新造船が投入される。
中国の経済発展とともに成長する商船三井は、2009年度末には船隊が1000隻を超える。支配船数の規模は世界一だ。国内人口の減少で貿易量の漸減が予想されるなか、かくも規模を拡大できるのはなぜか。ずばり、日本を経由しない「第三国間輸送」へシフトしているからである。先の花崎が緊急対応した船も、ブラジルと中国をつなぐ鉄鉱石船だ。今や、売り上げ、利益率とも第三国間輸送が過半を占めている。