総合物流の郵船、海運一本の三井

<strong>商船三井副社長 薬師寺正和</strong><br>1948年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。欧州・大洋州部欧州課長、定航部長、経営企画部長などを経て2003年、常務。05年、専務。07年より現職。定航(コンテナ)部門、ロジスティクス事業を担当する。
商船三井副社長 薬師寺正和
1948年、神奈川県生まれ。東京大学経済学部卒業。欧州・大洋州部欧州課長、定航部長、経営企画部長などを経て2003年、常務。05年、専務。07年より現職。定航(コンテナ)部門、ロジスティクス事業を担当する。

4月、東京・虎ノ門の商船三井本社ビル12階の小ホールで入社式が行われた。緊張の面持ちで式に臨んだ新入社員は41名。そのうち陸上勤務の新人が26名、契約社員9名。海上勤務は新人6名。経常利益、時価総額とも日本一の船会社にしては、小ぢんまりとした式典だった。

データの鬼といわれる芦田昭充社長は、入社式の挨拶で世界の荷動きに触れた。「1965年の世界人口は約33億人、当時の海上荷動きは17億トンでした。これは1人あたり0.5トンの計算になる。07年は世界人口が約67億人で72億トンと4倍以上(1.1トン/人)です。これが50年には人口が90億人、135億トン(1.5トン/人)。現在の2倍になると予想されます。海運の将来は、洋々たるものです」

そして芦田は、円高ドル安、原油高、サブプライムローンなどの減益要因もあるが、新造船の投入やコスト削減で08年度も3000億円の連結経常利益を叩き出す、と宣言した。

芦田がインタビューに応える。「年間平均が100円/ドルだとすると、昨年度に比較して為替で500億円、さらに原油高で400億円、その他含めて1000億円くらいコスト増になるかもしれません。しかしマーケットが好調ですから、その分を相殺できるよう営業が動いているところです」

海運界では円高の大波が押し寄せるたびに通貨建てをスイスフランや「金」にしてはどうかと議論されたが、CAF(為替レートの変動に対し調整される割増料金)などで切り抜けてきた。だが、新興国が目をみはる成長を遂げるなかでのドル下落は、世界経済の大変動の兆しともとれる。コンテナ部門の責任者である薬師寺正和副社長は、率直に言う。「米国のお客さんにユーロで運賃をくださいとは言えません。ただ、貰うのは強い通貨で、払うのは弱い通貨にしておきたいのは海運界の本音です」

昨年、中国の現法は、日本人勤務者も含めて本給をドル建てから元建てに変えた。急激な元高で1年ごとの見直しではカバーしきれない目減りが生じたためだ。“円”はどんどん影が薄くなっているが、中国を筆頭に新興国の経済力が高まれば、貿易量は増える。当然、物資を輸送する海運のニーズは高まる。商船三井は、いち早く日本中心の思考に見切りをつけ、世界の海上物流に目を向けた。その発想転換がこんにちの躍進を支えている。