ナマズの蒲焼きが当たり前の時代に!?
ここで無理矢理にオリジナリティを出そうとして、奇をてらうような試みをしたとします。例えば、蕎麦のメニューを加えて「蕎麦とうなぎを楽しめる店」にしようとか、ビールや日本酒ではなく「ワインでうなぎを味わう店」にしようなど、アイディアを膨らませることは簡単です。
しかし、仮にそのような店をつくったとして、一度は来店してくれても、なかなかリピートはしてくれないように思います。うなぎの場合、多くの人が「行きたい」とか「オーケー」と思ってくれる領域は実はかなり限定的で、そのフィールドから外れると途端に「正統ではなく異端である」として、そっぽを向かれる可能性が高いのです。こうした傾向は寿司や天ぷらなど、他の伝統的日本料理にも共通しています。
うなぎの世界で、新しいチャンスはあるのだろうか……。こんなことで悩んでいたら、マグロの養殖で有名になった近畿大学が「うなぎの味がするナマズ」を開発したとの衝撃的なニュースが飛び込んできました。うなぎについては資源の枯渇がかなり不安視されていますし、結果的に価格も高騰しているので、確かに代替できるものへのニーズはあるのでしょう。
なかなか実用段階に到達できていないうなぎの完全養殖(卵からの養殖)が普及する前に、果たしてナマズの蒲焼きが市民権を得ることになるのでしょうか。10年後くらいにはひょっとして、そんな状況になっていてもおかしくないのかもしれません。
子安大輔(こやす・だいすけ)●カゲン取締役、飲食プロデューサー。1976年生まれ、神奈川県出身。99年東京大学経済学部を卒業後、博報堂入社。食品や飲料、金融などのマーケティング戦略立案に携わる。2003年に飲食業界に転身し、中村悌二氏と共同でカゲンを設立。飲食店や商業施設のプロデュースやコンサルティングを中心に、食に関する企画業務を広く手がけている。著書に、『「お通し」はなぜ必ず出るのか』『ラー油とハイボール』。
株式会社カゲン http://www.kagen.biz/