また、この手の問題は管理者の責任が問われる。係長が問題を起こしたら上司である課長が監督責任を負わされ、部長や社長からも責められるので中間管理職は要注意だ。通常、部下が問題を起こして処分された際、監督責任を問われた上司のほうの処分が軽いことが普通だが、部下が繰り返しトラブルを起こしていたことを知りながらわざと見逃していたり、実質的に加担していたとみなされた場合、部下と同等かそれ以上の処分を受ける可能性もある。さらに会社自体の責任が追及される場合もある。法律用語でいえば、使用者責任・不真正連帯債務という考え方だが、問題を起こした者だけではなく、会社も一緒に連帯責任を負い、損害賠償に応じよということはよくあるのだ。
研修を行ったり、トラブル防止のための指針を策定するなど、十分な対策を取っていれば免責されるという意見も多いが、それが形式的なものにすぎない場合、裁判で免責が否定されることもあるので注意が必要だ。逆にいえば、名指しで訴えられた場合、いかに上司や会社を巻き込み、自分の責任を薄めるかが生命線だ。一刻も早く弁護士に相談したほうがいい。
パワハラは女性からの被害相談が表面的には多い。しかし私が思うに、実際に訴えてはいないもののパワハラで苦しんでいるのは男性のほうが多いのではないか。なぜ男性の被害者が黙っているかというと、男がそんなことで弁護士に泣きつくのはみっともないという価値観があるからだ。
最近、セクハラに関しては問題意識がようやく世間に浸透してきた感がある。とはいえ、トラブルはなくならない。2014年6月、東京都議会での「産めないのか」発言が大きく取り上げられた。「子どもを産めないのか」という発言は、特に相手が身体的な問題を抱える場合、自分の努力ではどうしようもないことであり、相手をひどく傷つける。セクハラでないと主張するのはほぼ無理だ。これが「子どものつくり方を知らないなら教えてあげようか」なら、ぎりぎりセーフかもしれない。というのも、単に知識がないのなら、それは勉強すればよく、努力で越えられる壁だからだ。もっとも相当嫌な顔はされるだろうし、会社から注意を受けるのは間違いないだろうが。また、あくまで一例だが、宴会の席で「この中の誰がタイプか答えなかったら、犯すぞ」などと発言して懲戒解雇された男性が、解雇無効の判決を勝ち取ったことがある。それまでのセクハラ行為に会社が全く注意や処分を行わなかったにもかかわらず、いきなり懲戒解雇にするのは処分が重すぎるというのが理由だ。
1975年、東京都大田区生まれ。都立日比谷高校、早稲田大学政治経済学部政治学科卒。弁護士秘書などを経て2008年、城南中央法律事務所を開設。