家族関係も友情も手入れが大切だ

佐々木常夫氏は東レでの仕事に全力投球する一方、病に苦しむ家族のため家事にも全力を注いだ。家族の絆が強いのはそのためだ。

以前『熟年離婚』というテレビドラマが話題になった。定年を迎えた夫が、これからは妻とともに生きようと指輪を買い、2人で行く海外旅行を予約して帰宅すると、妻は離婚届に判を押して待っていた……。仕事を言い訳に家庭をないがしろにしてきた夫に、妻はとっくに愛想を尽かしていたのである。

夫にとってはたまらないが、こういった類いの話は、決してめずらしいものではない。地方講演の折に温泉旅館に泊まると、熟年夫婦と一緒になることがよくある。そんなとき、多くのカップルは食事中もそれぞれがスマートフォンを見たり新聞を読んだりで、会話がない。結婚したときはお互い愛し合っていたはずなのに、なぜこうなってしまうのか。

簡単な話で、夫婦関係を良好に保つための当然の努力をしてこなかったのだ。男は仕事さえしていればいい。こんな理屈は妻には通じないと思ったほうがいい。

家族と同様、大切にしたいのが友達だ。私は大学時代ワンダーフォーゲル部に所属していた。このときの仲間とはいまでも毎年決まった日に集まって旧交を温めている。実は、卒業後しばらくはみな忙しいこともあって、一堂に会する機会はなかった。新卒で配属になった大阪からようやく東京に戻った私が、そういえばワンゲルの同窓会を一度も開いていないと気づいて声をかけたのがきっかけだ。そのときは18年ぶりだったにもかかわらず、全国から30人近くが東京に集合し、時間を忘れて大いに盛り上がった。そこから毎年の恒例行事となったのである。

若いころ培った友情は、一生の財産だ。だが、どんなに太い絆もほったらかしにしていたらやせ細り、いつかは切れてしまう。そうならないためには手入れが不可欠。友情も家族の絆も同じである。

直接会えればそれに越したことはないが、時間がないなら手紙でも電話でもいい。とにかく億劫がらずに定期的に連絡をとることが肝心だ。