なぜ役所は就農に反対するか

玉村豊男氏

長野県・軽井沢町で暮らしていた私たち夫婦が、畑づくりがしたくて現在地(長野県東御市)に移住したのはいまから24年前のことでした。生まれも育ちも東京ですが、41歳で病気をしたのを契機に、景色のよい静かな場所で農業をしながら暮らしたいと思い立ったのです。その後土地を探したりして、実際に引っ越したのは私が46歳、妻が40歳のときでした。初めてぶどうを植えたのは1994年、それがヴィラデストガーデンファーム アンド ワイナリーのはじまりです。

いま、私の周辺では30~40代の都市生活者が家族で移り住むケースが目立ちます。(1)奥さんが「子育てには田舎のほうがいい」と考えるようになった、(2)消滅の危機に直面する地方自治体が、ひとりでも多くの人に移り住んできてほしいと考えるようになった、(3)インターネットの普及により首都圏と地方の情報格差がなくなった、これらが若い世代に移住希望者が増えている理由ではないかと思います。

私のところにも、「自分の育てたぶどうでワインをつくりたい」「田舎に移住したい」と相談に来る方がたいへん増えました。

彼らはまず役所に相談するのですが、役所はたいてい「農業は儲かりませんよ」と移住に反対します。実際、まったくの素人がすぐに利益を出せるほど農業は甘くありません。それでも諦めきれない人は、ぶどう畑やワイナリー(ワイン醸造所)を経営している私のところへ、相談にやってくるのです。