筆書き手紙に隠された秘密

私どもの仕事は、ヘッドハンティングをする候補者に手紙を出すことからスタートします。その際、封筒の宛名、便箋の文章は、すべて筆書き。しかも、プロの筆耕者に依頼したものですから、とても美しく、バランスも素晴らしい。おそらく、こんな手紙をいきなり手にした人は「えっ? 誰からの手紙かな……」と興味を持つはずです。

この業種・業態(エグゼクティブサーチ)が発達した欧米ならアプローチは電話がほとんどです。いまはワープロで打った挨拶文に直筆のサインが一般的でしょう。しかし、私は手書きにこだわっています。それは、これから人生を左右するような面談になるかもしれない相手に、心がこもって、誠意が伝わることを願っているからにほかなりません。

現在、世の中のDM、例えばファンドなど金融商品の勧誘や新築マンションの販売などは基本的に印刷ラベルでしょう。もし、これらが手書きで届いたら、当社は逆にワープロで行きます。私は、常に世の中のマジョリティーはどこにあるのかということをキャッチしておく必要があると考えています。ワープロが主流であれば、その真逆を行くということです。

それによって差別化が図られるからです。手書きがいつまで有効かということも念頭に置いておくべきです。そこに変化が生じれば、また私どもも対応を変えなければいけません。そんな視点でDMを考えています。現在のやり方なら、まず、封筒の表には「親展」の文字を入れる。さらに、裏面には差出人である当社の社名は書かず、担当者の個人名で出すようにしています。万一、ヘッドハンティング会社からの接触だと周囲に知られて、あらぬ誤解を候補者が受けることを避けるためでもあります。

これによって間違いなく、めざす相手が封を開けてくれる確率は高くなるはずです。この開封率はとても大切です。そこも高めていかないと、面談率にしても、クロージング率にしても高くなりません。やはり、候補者の数が1人でも多いほうがより精度の高いマッチングができます。そう考えて、開封率を向上させられる、この方法に行き着きました。

より重要なのは、こうした手書きの封書に接した際の反応によって、ヘッドハントしたい人物のセンスもうかがい知ることが可能だということです。手紙を見て「もしかすると、自分にとって大切な連絡かもしれない」と思えるような感度の良さは、私どもからしても魅力的です。そんな人は、面談に進んだ後も話し合いがスムーズに進みます。クライアントからの要望に応え、成功率を上げるということだけではなく、候補者との縁を「一期一会の出会い」と思えば、手紙一通にかける手間暇を厭うべきではありません。