音読が脳を鍛えるのになぜ有効かについては、近年かなり研究が進んでいます。まず、音読をすることにより、大脳のさまざまな分野がいっぺんに活動することがわかっています。これは「見る、聞く、話す」という3つの動作を同時に行うためで、認知速度、つまり“頭の回転”や物事の判断や予測の力を養うトレーニングになります。また、脳がより働きやすくなり、音読直後の記憶の容量が20~30%増えることもわかっています。

大人の場合、週3回以上、一度に800字程度の文章を音読すると能力の向上につながります。新聞の社説やコラムなら2回ですね。こうしたトレーニングを取り入れた企業では、業務のミスが導入以前より減少するという調査結果もあるんです。

では、子供にとって音読はどんな効果があるのか。もちろん脳が活性化するわけですから、学習にとってプラスになることは間違いありませんが、それだけでなく「子供を褒めて伸ばす」を実践できる最大のチャンスなのです。

音読は複数の動作を一度に行うことに意義があるので、読み方の上手、下手はまったく関係がありません。つまり、褒めやすいわけです。親は何をしていてもまず手を止めてそれに付き合い、読み終わったらすかさず「ちゃんと読めたね」「偉いね」と声かけをしてやる。これだけで子供の脳は非常に活性化します。

ここで大事なのは「手を止める」「すかさず褒める」ということ。脳科学では“即時フィードバック”などと呼びますが、子供が何かをしたとき、親が間髪入れずにそれを褒めると、子供の脳は爆発的に反応し、物事に対する意欲が向上するんです。ですから勉強を始める前のウオーミングアップとして音読を活用すると、子供の脳の活性化とやる気の向上という2つの効果が得られるというわけです。

ただし、2~3分、褒めるのが遅れただけでも、その効果は失われてしまいます。つまり、「子供の音読に付き合い、すかさずそれを褒める」ということは、紙一重のタイミングの差で結果が大きく変わってくる、家庭教育がうまくいくかいかないかの瀬戸際なのであるということを、親にはしっかりと自覚していただきたいと思います。

スマホをいじりながら、いやいや子供の音読に付き合い、声かけのタイミングを逸してしまうことが、いかに愚かなことかわかりますね。それでもたった数分の音読に付き合うのが辛いという親に一言。わが子の音読のためのたった5分が我慢できないとなると、親の脳の劣化が重篤である危険性があります。そんな親にこそ、音読をお薦めします。

※プレジデントFamily2016年夏号には、このほかにも「勉強好き」に大変身する50のヒントを掲載しています。ぜひご覧ください。

川島隆太
東北大学加齢医学研究所所長。研究テーマは脳機能イメージング、脳機能開発。「脳を鍛える大人の音読ドリル」シリーズの著者。ニンテンドーDS用ソフト「脳トレ」の監修者。
 
(田中義厚=構成)
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