自分だけは災難に遭わないと信じる人々

計画錯誤を防ぐ方法は、他にもあります。

前出の学生達に「過去の自分の経験に基づいて予測を立てる」ように事前に指示すると、「正解」に近い現実的な予測をしました。さらに、自分以外の学生が論文をいつまでに完成させるかを考えさせたところ、さらに現実的で的確な予測をしました。(『意志力の科学』より)

これから浮かび上がってくることは、人間の本質そのものです。

人間は他の人に必然的に起こることであっても、「自分だけ」は無関係だと信じています。事故、大病、離婚、社会的なトラブル、失業、事業の失敗、介護問題……。そうした“悲劇”が起こらないと楽天的に考える性質を持っているということです。そのため、たいていの人のファイナンシャル・プランは非現実的な楽観主義に支配されています。

とはいえ、他人に起こりうることは自分にも起こるので、結局、「後の祭り」になってしまうのです。

その点、安田財閥 の創設者・安田善次郎はそうした人間の本質をよく知っていました。

彼が実践した「分度生活」による資産形成は「不意の災難や非常事変の準備のため」とはっきり述べています。誰にでも楽観バイアスがあり計画錯誤があることを見越したすばらしい考えだではありませんか。

何のために蓄財をするのかという疑問に対して、これより明快な答えはありません。

僕自身も、5年前の3.11のときに、所有するホテルに津波が直撃して莫大な損害を被りました。また、個人で億単位の不渡り手形をくらったり、億単位の不測の損失が発生したりすることがこれまでに何回かありました。

そんなときでも何とか対応できたのは思いがけない変事のための蓄えがあったからです。

資産形成の道は決して右肩あがりの一本調子ではありません。人生を歩んでいると、蓄えがなければ致命傷になりうる不運に遭遇することが少なくとも数回はあるはずです。そんな不運ごときで1度しかないかけがえのない人生を失敗に終わらせている場合ではないのです。

「人生は楽しまなくては」というキリギリスは、環境が変化して冬になってアリが助けなければ死んでもしかたがない状況でした。そんな時になって、自分が浪費を尽くしたことを棚に上げて、国や他人に頼るということはいささか情けないことだと思います。

読者のあなたも、いちど自分のライフプランが計画錯誤に陥ってないか、検討してみてはどうでしょうか。65歳で金融資産1億円(=富裕層)を目指すということは数々の不運も織り込んで検討する必要があるということです。(編注:発売されたばかりの『PRESIDENT NEXT』vol.16の特集は「誰でも、ゼロから1億円 お金が貯まる生き方」。これに筆者の金森重樹さんが全面協力。「東大卒の超富裕層が教える正しい4つのステップ」「『儲からなそうな』ビジネスほど成功する!」などのページで、これまで口外しなかったノウハウを特別公開しています。乞う、ご購読!)

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