こうなるともはや、満足の期待値を超える顧客感動(CD)といっていい。理念を実践する過程で、一人ひとりのキャストのマナーや行動が研ぎ澄まされていく。ちなみに、ディズニーでは、CDをさらに顧客ロイヤルティー(CL)に高め、生涯にわたってのファンづくりをめざす。

このような個々の対応を可能にするには、膨大なマニュアルが必要になるのではないか。鎌田氏はいう。

「ディズニーにはサービスのマニュアルがひとつもないんです。それでは、どうやって教育してるのかということになりますよね。全部事例なんですよ。事例のほうがわかりやすいし、より具体的なのです」

鎌田 洋氏
1982年、オリエンタルランドに入社。現在はヴィジョナリー・ジャパン社長。

ゲストが喜んでくれた事例をキャストで共有する。そのためのツールが全キャストに配布される社内報だ。そこには必ずゲストからの手紙が載っている。一人の、あるいは複数のキャストにもてなされたことへの感謝の言葉ほど雄弁なものはない。それを読んでもらうこと自体がどんな教育にもまさるという。

「~をしなくてはならない」というマニュアルがあるのではない。このようなゲストに喜んでもらった事例をキャスト全員で共有することで、自然と伝播していくのだ。

「もちろん、キャストにもルールはあります。あいさつは『いらっしゃいませ』ではなく『こんにちは』と声をかける。このほうが会話を引き出せるからです。あるいは子供のゲストに『木に登ってはダメです』といわず『危ないですよ』と間接的に注意を促します。でもそれらは、あくまでも基本的なことで、後はキャストの“想像力”に任せる。それが、自分が考えて動くことが、彼らの仕事のモチベーションにもつながっているはずです」

この鎌田氏の言葉はキャストの働きがい、つまり従業員満足(ES)こそが、ディズニーリゾートのリピート率を支えているということだ。確かに、目の前のゲストに、どう喜んでもらうかは、サービスをする側の感性に負うところが大きい。キャストに裁量権を与え、キャストの想像力に委ねる。それが、キャストのプライドを喚起し、ESも醸成する。これが東京ディズニーリゾートのCSの高さの源泉にほかならない。