恋愛・結婚・出産をあきらめる「三放棄」
2013年12月の初版以来、2年半で135万部というベストセラーになった『嫌われる勇気』。今日のアルフレッド・アドラーブームに火をつけたこの本は、1年後に韓国語版も出版され、これまでに115万部を突破している。主な読者層は30代の女性。発売された時期と約5000万人という韓国の人口を考えれば、日本以上に読まれているといってさしつかえない。
著者でアドラー心理学の第一人者として知られる岸見一郎氏は「ソウルの光化門などにある大型書店・教保文庫の総合部門で、連続51週にわたって1位だったと聞きました。ビジネス書のくくりではなく、手に取ってくれる人は哲学書として読んでいるようです。そのことに手応えを感じます」と話す。
続編の『幸せになる勇気』も日本での発売後、すぐに韓国語訳され、この春には店頭に並んだ。こちらも初版が15万部という過熱ぶり(日本では初版8万部、累計37万部)。なぜ、日本と韓国でこれだけ支持されるのか。アドラー心理学には、家族、仕事、結婚など、すべての悩みは対人関係の悩みだという概念がある。おそらく韓国社会が、そうした面で日本以上に閉塞感があるからだろうと岸見氏は見ている。
「韓国にはいま、“三放棄”という言葉があり、若者の半分が低収入などの理由から、恋愛、結婚、出産を『もう無理だ』とあきらめています。加えて、大学受験と就職も競争が激しく、親の期待に応え一流校、大企業に入らないと、格差社会に埋没しかねません。将来的には介護の問題も出て来ます。儒教の国である韓国は、親孝行ということが重要な価値観です。こうしたことから、自分と周囲との関係が息苦しく、なおかつ不安を感じているのでしょう」
とはいえ、アドラーの発想を理解し、現状を打開していくのはそれなりにむずかしい。なぜなら、人生のいろいろな局面で自立や社会と調和して暮らすことは観念ではないからだ。つまり、この本を読んで、なるほどと納得したことは実行に移さなければならないのである。踏み出すべき1歩の距離は、人それぞれ異なるだろう。ただし、その反応は日本より韓国の若者のほうが早いと岸見氏は感じた。