こんな持病がある人は要注意

喜多医師はこうした患者さんの治療とともに、医業類似行為の健康被害問題にも取り組んでいる。

首を急旋回させる手技は「頚椎スラスト」と言われ、厚生労働省でも「患者の身体に損傷を加える危険が大きい」として91年から禁止行為とした。にもかかわらず、いまだに整骨院などで行われている場合があるという。

また、マッサージそのものが、あまりにも安易に行われていることにも警鐘を鳴らす。

「スポーツ選手並みの鍛え抜いたアスリートの筋肉なら、もみほぐして血流改善するという方法もありえます。しかし、高齢者や病気のある人、やせた人の薄い筋肉を、もんだり押したりというのは、治療としてはありえません」

喜多医師が心配するのは、40歳ごろから首に起こりやすい「頚椎の加齢変性」である。肩や腕の痛み、腕や手指のしびれが起こると、肩こりが原因と間違えやすいが、加齢による変化と日々同じ姿勢を続けることで、脊椎や椎間板や靭帯が変性し、神経に圧迫がかかりやすい状態になっているのだ。

これに気づかず、「単なる肩こり」として若くて筋肉量のある人と同じようにぐいぐいとマッサージを行えば、体に損傷が起こる危険は高い。

過去には、骨粗鬆症や前立腺がんの骨転移で腰痛の起きていた高齢者が腰をぐいぐいもまれ、骨折していたという事例もあったという。

このほか、椎間板ヘルニアや脊柱管狭窄症などの疾患のある人は、うつ伏せ姿勢でマッサージを受けてはいけない。また、首、肩、背中、上腕の痛みやだるさには心疾患、消化器疾患や骨粗鬆症などが隠れている場合もある。痛みを取ることだけにとらわれず、まず全身の健康をチェックしよう。

喜多整形外科院長 喜多保文(きた・やすふみ)
スポーツ医、産業医、身障認定申請指定医。関西医科大学卒。関西医科大学滝井病院、香里病院、阪和病院などを経て現職。医業類似行為の健康被害問題にいち早く取り組む。
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