内定前なら企業側が内定後なら社員が断然有利

若者のファッションとして浸透しつつあるタトゥーですが、ビジネスシーンではいまだ敬遠される傾向が強いようです。業種にもよりますが、タトゥー社員はできるだけ採用したくないというのが企業の本音ではないでしょうか。

採用段階ならば、タトゥーを理由とした不採用も可能でしょう。性別などの差別的な理由でないかぎり、採用に関しては広く企業サイドの自由が認められています。自社が求める身だしなみを応募者に明示したうえでタトゥーの有無の申告を求めても、法的には何の問題もありません。

ところが内定後は、一転して労働者側に有利になります。内定は法的には労働契約が成立した状態とされ、内定取り消しは解雇と同じ枠組みで捉えられます。日本の判例法理は解雇権の濫用について厳しい姿勢を取っており、たとえ入社前でも内定取り消しは困難。タトゥー社員を入社させたくないなら、内定前のチェックが必須です。

厄介なのは、採用段階のチェックをくぐり抜けてしまったケースです。面接時に把握できず、内定後の健康診断や、入社後、クールビズで薄着になった途端にタトゥーが発覚することがあります。この場合、まず本人と話し合って指導することが大切。例えば半袖のときにタトゥーが見えるという程度なら、長袖を着てもらうことで折り合いがつくでしょう。また、営業職など接客がある職種なら内勤へ配置転換することもできます。多くの場合、こうした対応で業務上の支障はなくなるはずです。

図:こんな奴はクビ! 服装等に関する「適格性欠如」チェック項目
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図:こんな奴はクビ! 服装等に関する「適格性欠如」チェック項目

それでも解決しないときは、懲戒処分の対象にすることもできます。ただし、懲戒処分には客観的合理性と社会的相当性が必要です。客観的合理性と社会的相当性は、職種や業種などに照らし合わせて判断されます。例えば営業職など顧客と接する職種や教育産業など、対外的なイメージを重んじる業種では、合理性が比較的認められやすいといえます。

ただ、その場合も「お客様からクレームが入った」「ネット上で噂になり、会社の信用を失墜させた」というように、業務上、具体的な支障をきたしていることが条件。「なんとなく印象が悪い」という理由だけでは、不当な処分とみなされます。

タトゥーを含めた身だしなみについて、就業規則に定めている企業はほとんど見かけません。就業規則は労基署への届け出が必要で手間もかかるため、現実的には服装マニュアルなどのガイドラインで対応している企業が多いようです。就業規則に定めがあれば就業規則違反で処分できますが、仮に定めがなくても、指導後に改善が見られなければ、「指示・命令に反した」として処分できます。どちらにしても合理性を求められるので、法的には大差ありません。

ガイドラインは、労使双方が入ってまとめることが望ましいでしょう。タトゥーにかぎらず身だしなみに関する指導は、個人的な好き嫌いで行っていると誤解されやすく、パワハラで訴えられる可能性もあります。各世代からメンバーを募って草案づくりに参加してもらったり、社員アンケートを実施するなどして社内のコンセンサスを取っておけば、ガイドラインの説得力は増すはずです。

最近は価値観が多様化して、茶髪や口ひげなど、ビジネスに相応しくないと言われてきたルックスで仕事をする社員が珍しくなくなりました。そうした世相を反映して、それらを理由とした懲戒処分や解雇は不当と判断される傾向にあります。法的に争っても分が悪いので、企業としては細心の注意を払って対応すべきでしょう。

※すべて雑誌掲載当時

(構成=村上 敬)