規制緩和すればさまざまな可能性が

――日本経済に大きな影響を持つ米国経済が回復基調にあるといわれていますが、実際はどうなのでしょうか。

米国はGDPなどのデータの公表が遅いのですね。しかも使っている数字と違う数字が出てくる。失業率も少なくなっているように見えていますが、老齢化している人たちが就職を申し込まない。それがものすごく増えているから失業率が減っている。さらに簡単な技術を持っている人たちが、ロボットなどに取って代わられて、中間層の職がない。一方で英語がしゃべられないような教育水準の低いような人たちの職はあるのですが賃金が安い。企業はそうした賃金が安い人たちを使い、さらにロボットを使って利益を上げているから、企業の利益は高く出てきたりしている。特に米国の経営者は株主を考えすぎて、株式の買い戻しをやりすぎる。借金してまでやっているために、株価は上がるけれども、実体経済を誤解させる要因になっている。総合的に考えると、米国の経済はもう少し厳しいのではないかと思っています。

――日本の大手企業の経常利益は大きく伸びていますが、実態はどうなのでしょうか。

確かに日本の上場企業の経常利益は何期に渡っても伸びています。しかし輸出入を見ると、数量はほとんど伸びていない。むしろ減っているといってもいいかもしれません。円安の中で値下げをしなかったので、ドル建ての商品が円に換算されたときにものすごく大きな利益が出たのです。為替に連動してドル建て商品の値段を下げずに済んだのは、質が良かったということもあるのでしょうが、これは会計上のマジックといった方がいいかもしれません。結局、金融緩和政策は何だったのかといったら、円安政策だったということなのです。それ以外は極論すると何もなかったということでしょうね。そういうことを今、株式市場が警戒しているのではないでしょうか。

――そのような中で日本経済は今後どうなっていくのでしょうか。

日本経済は、円が1ドル=110円を切っていくと問題だと思いますが、110円から120円ぐらいの間であれば、十分回復できると思います。おかげさまで観光客が来て、大きな市場となっていますが、設備投資をしてモノを作ってGDPを取り戻すというのは無理だと思います。日本は抜本的な構造改革が必要です。第3の矢が構造改革につながっていけばいいのですが、これがなかなかできない。

要するに既成勢力がいろいろな圧力をかけている。それをなかなか否定できなくて大きな壁になる。それはさまざまな産業で起こってきていたのです。25年間に世界のGDPが2.5倍になっているのに、日本だけがそうならなかった。アジアでも1人あたりのGDPがシンガポールだけでなく、数年以内には台湾にも負けるようになってきている。それは自分たちのテリトリー(縄張り)を守る人が多すぎるからです。本当は国家権力がそうしたテリトリーを撤廃すればいいのですが、民主主義はそうした人たちを敵にはまわせない。それは日本だけではない。米国などでは、結果的には部分的に破壊しているが、日本ではそれすら難しい。農業などでも規制緩和すれば、さまざまな可能性が生まれてくるのですが、それをやらせない。それで国が行き詰まっていく。そうしたところに資金需要がないから、金融セクターから産業に金が出ていかないという構図が出てきてしまっているわけです。