年初から株価が乱高下し、世界的に金融市場が大混乱している。日本はマイナス金利政策を打ち出したが株価は暴落、急激な円高となった。日本取引所グループ前CEOで、米大手投資ファンド、コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)の日本法人会長の斉藤惇氏を緊急インタビューした。

金融緩和策の実態は為替の切り下げだった

――日本は年初から世界的に株価が乱高下しています。
斉藤惇・KKRジャパン会長、日本取引所グループ前CEO

これは難しい問題で、正しい解答はないと思います。一つは政府としての政策で「これは」というものがないので、少なくとも世界中で金融緩和をした。結果としてどの国も中央銀行に頼った金融緩和政策をとったわけです。それがある程度効果があったかのように見えていたのですが、金融緩和政策の実態は為替の切り下げ競争に近かった。しかも市場に介入した形になっていたるために、金利に自然な値段がついていない。特に為替市場などと違って介入しやすい債券市場、金利市場は、各国の中央銀行の介入市場になっていたのです。だから本来つくべき値段がついていなかった。少し長い目で見ると、自然に需給バランスがつくはずの金利も政策的に歪められたために、そのツケがまわってきてしまったのではないかと思います。

そしてもう一つは原油価格の問題です。原油の取引にはアービトラージャー(裁定取引の参加者)が間に入って非常に重要な役割を果たしてきました。かつてはゴールドマンサックスやモルガンスタンレー、JPモルガンなど大手投資銀行が、コモディティ―(商品先物取引)の部門を持っていて、売買をやっていました。ところがボルカールール(注)など新しい金融規制で、こうし投資銀行が自己勘定での取引ができなくなりました。さらに銀行がコモディティ―の倉庫を持っていることが問題となり、大手のアービトラージャーがみんな、原油などの商品の先物取引をやめてしまった。

そのため、今売り物があると、いきなり値段が下の方に落ちてしまうし、一方通行の非常に荒っぽい市場になっています。値段が下がるのはわかるのですが、それが非常に荒っぽい。市場があるというよりは、相対取引のようになっているのです。私は市場をわかっている人たちが、市場のルールを作り直していかなければならないと思います。そうしないと、何にでもこうした問題が現れてくる。観念的にインベストメントバンカーが、レバレッジをかけてコモディティーの取引をしていることがいけないのだと決めつけるのはいかがなものか。金利市場にも原油取引市場にもそのとがめがきている。良かれと思ってやった過去2、3年のことが、市場の原理を曲げてしまって市場が怒ってしまったのだと思います。

――中国の経済成長が減速していることが世界経済に大きな影響を与えているのではないかという指摘があります。

中国でも、国家や国有企業が、民間が伸びていく市場に過剰に介入をしている結果、本来の需給が形成されるような物価ではなくなっている。モノの値段が異常に不合理になってしまっているのです。中国経済が効率性を落としているのはそのためで、これを変えられないから中国経済は苦しい状態となっています。ここを変えれば、経済が回復する。それは中国当局も頭ではわかっている。もうすぐ発表される第13次5カ年計画にははっきりそういうことが書いてあります。重工業から第3次産業への移転、できるだけ国有企業を民営化する。しかし問題はそれが本当にできるのかということなのです。それができれば、中国は少々の混乱があっても大丈夫です。しばらくコストを払ってから安定すると思います。

注.ボルカールール:2010年夏に成立した米国の金融規制改革法(ドッド・フランク法)の中核となる「銀行の市場取引規制ルール」のこと。2015年7月21日より全面適用されている。 銀行が自らの資金(自己勘定)で自社の運用資産の効率を図るためにリスクをとって、金融商品を購入・売却また取得・処分をすることを禁止する。オバマ米大統領の呼びかけにより、ポール・ボルカー元米連邦準備理事会(FRB)議長が提唱した。(野村証券の証券用語解説より)