車椅子生活でも自宅に住み続けるか?

部屋の狭さは、どうすれば解消できるのか。リフォームで部屋の間取りを変えるやり方もあるが、もっと簡単な方法もある。引き戸の活用だ。

「部屋と部屋を壁で仕切るのではなく、一部を大きな引き戸や開閉式の間仕切りにします。介護の人が入る時間だけ引き戸を開けて隣の部屋とつなげれば、作業スペースは確保できるでしょう」

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屋内の狭さ、危なさを「引き戸」で解消:狭い部屋をさらに狭くしているのが開き戸タイプのドア。引いたときに足に引っかかるなど高齢者には危険でもある。

一方、廊下のリフォームは一筋縄にはいかない。廊下の幅員は柱と柱の間隔で決まるため、幅を広げたければ柱をずらす必要がある。柱を移すことになれば工事は大掛かりになり、コストもかかる。

「技術的には可能ですが、コストを考えると、自分で歩けるうちは無理にやらなくていいと思います。まず、廊下が広すぎると、歩行時に壁が遠くなって体を支えにくくなり、かえって危険が増します。また、リフォーム費用を貯めておき、いざ車椅子生活を強いられたときに介護施設に入る費用に充ててもいい。『住み続ける』だけが唯一の選択肢ではありません」

ちなみに断熱材の貼りかえも、壁を壊す必要があるため、単体でやるとコストがかかりすぎる。断熱材の貼りかえは、他の工事のついでにやるのが得。工事をする予定がなければ、窓をペアガラスにするなど部分的な対応で十分だ。

階段のリフォームについては選択肢が限られている。階段のかわりにエレベーターを改築・増築すると便利そうだが、改築は構造の問題でハードルが高く、増築は建蔽率や容積率の関係で不可能な住宅が多い。階段につけるリフトも万人向けではない。スピードが遅く、1日に何度も昇り降りする人には使い勝手が悪い。結局、階段の傾斜を緩やかにするリフォームが現実的だが、中西さんは別の角度からアドバイスをする。

「いっそ寝室を下に持ってきてはどうでしょうか。1階で生活を完結させれば、階段を昇り降りする必要もなくなります。ただ、1階は日当たりが悪くて嫌がる人も多い。その場合は2階の床をなくして吹き抜けをつくり、上から光を採り入れればいい」

発想しだいで、高齢者が住みにくい家も生まれ変わる。単にバリアフリー化するだけでなく、毎日の生活が楽しくなるリフォームを目指したいところだ。

住まいのカリスマアドバイザー 中川寛子(なかがわ・ひろこ)
子供のころからの間取り図好きが高じて住まいに関わる雑誌、書籍、ネット記事などに30年近く携わる。著書に『「こんな家」に住んではいけない!』など。
 
一級建築士、リフォームの匠 中西ヒロツグ(なかにし・ひろつぐ)
1964年、大阪府生まれ。イン・ハウス建築計画代表。京都工芸繊維大学卒。朝日放送のテレビ番組「大改造!! 劇的ビフォーアフター」には最多の8回出演。著書『暮らしやすいリフォーム アイデアノート』。
(永井 浩=撮影 AFLO=写真 ライヴアート=図版作成 イン・ハウス建築計画=間取り図提供)
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