暑すぎて寒すぎ「昭和の家」のリスクとは
とはいえ、和室の生活が高齢者にやさしいわけではない。
「和式の生活は立ったり座ったりの動作が多く、負担になります。寝室が和室だと布団の上げ下ろしが必要だし、トイレも洋式より和式のほうが足腰に負担がかかります。食事も、ちゃぶ台やこたつよりテーブルのほうが楽でしょう」
中川さんが最後にあげたのは、断熱性の悪い家。断熱材の取り付け方法が改善され、断熱性能が高い窓やサッシが普及したのは、いまから10~15年前。それ以前、とりわけ昭和に建てられた家は、夏は暑すぎ、冬は寒すぎてしまう。
「断熱性が悪いと、夏は熱中症のリスクが高まります。一方、冬は寒すぎるので、暖房をつけた部屋と、暖房が入っていない廊下やトイレなどとの気温差が激しく、ヒートショックで脳卒中や心筋梗塞を引き起こすおそれがあります」
これまで見てきたように、日本の住宅は必ずしも高齢者が暮らしやすいようにつくられていない。これから住宅を購入する現役世代は、これらの点をよく考慮したうえで判断すべきだろう。
問題は、すでに住宅を購入して、いままさに老後を迎えようとしている定年退職後の人たちだ。以上の問題点は、はたしてリフォームで改善できるのか。一級建築士で「リフォームの匠」としても知られる中西ヒロツグさんに、バリアフリー化のテクニックを聞いた。
まず気になるのは、室内の段差。段差をなくしてフラットにするのは難しくないが、中西さんは段差を逆に利用する方法を提案する。
「通常、畳の間は畳の厚さで3cmほどの段差ができます。これをリフォームでフラットにすることは可能ですが、逆に段差を30cmほどにしてもおもしろい。30cmあると、ベンチのように腰を掛けることもできるし、そのまま寝転んでベッドのように使ってもいい。埃は低いところにたまるため、段差の上のスペースはほとんど汚れず、最低限のお手入れで済みます」
和式の生活は高齢者に負担が大きいが、畳の間の段差を大きくすれば、和のテーストを残しつつ空間を洋式に使うことができる。段差の問題もなくなって一石二鳥だ。