東芝社長 退任後も相談役、会長、副会長
ある中堅の流通会社には代表取締役社長をはじめ専務、常務、取締役の計9人の役員がいる。歴代社長はいずれも生え抜きが就任しているが、社長の在任期間が10年と長い。
取締役会の状況について同社の人事担当役員はこう語る。
「取締役会に議題として提案する前に、担当部門長と社長が事前にネゴシエーションを行ったうえで提案される。したがって取締役会では了解が前提のような形になってしまい、それに対して他の部門の取締役が何か言ってもしょうがないという雰囲気があり、発言しない。逆に異議でも唱えようものならば、後で自分に跳ね返ってしまうのではないかという危惧もある」
役員が発言しないのは何も社長を恐れているからだけではない。「会社全体の経営情報を他の役員が共有していないからであり、さらにいえば経営トップが情報を独占しているからだ」と人事担当役員は指摘する。
当時はオリンパス事件を例外とみる経営者も多かったが、その後も老害による事件は絶えていない。
その典型は東芝事件だ。
社長を退いても相談役、会長、副会長として経営に口を出し続け、ついに経営をどん底に追い込んだ。
最大の要因は「老害」を温存する日本の企業構造にあると思う。大手企業の秘書室長経験者はこう指摘する。
「CEOが気を遣うのは株主でも従業員でもなく、前の社長だ。しかも会社に相談役室があり、歴代社長の部屋に写真がずらっと並んでいる。彼らの承認を経なくては何もできないようなところがあった。会長、元会長の影響力を排除するのは非常に難しいのが現実だ」
日本企業の後任社長の多くは前任の社長が指名する習わしがある。たとえ前任の社長が業績悪化の責任をとって辞めても次期社長を指名する。
社長を退くと、自らは会長の椅子に座り、会長の後は相談役になり、その次は顧問として報酬をもらいながら死ぬまで会社に居座る。