トップを選定するよりよい仕組みとは
しかしながら、トップが姿勢を変えることほど難しいこともない。そして、ダメなトップを交代させたからといってうまくいくとも限らない。特に日本企業の場合、トップ人事は前任者の専権事項であるケースが多く、決め手になるのは、はっきり言えば「好き嫌い」である。ほとんどの場合、自分好みの部下を後釜に据えてしまうのが実態なのだ。必ずしもトップとして適任とは思えない人物がトップになってしまう原因は、そこにある。
その点、アメリカの会社はまったく違う。指名委員会という第三者機関を設置して客観的にトップを選定する企業が多い。あるいは、GEのように、リーダーを育成する専門の教育機関を設置して早い段階から選抜を繰り返し、リーダーとして最も優れた素質と能力を持つと思われる人物をトップに据える企業もある。
アメリカの企業がすべて正しいと言うつもりはないが、こうしたプロセスを踏んで就任したトップは、少なくとも好き嫌いで選ばれたトップより、優れたトップになる確率は高いかもしれない。あえて仕組みという言葉を使えば、アメリカ企業の「トップを選定する仕組み」には、学ぶところが多い。
だが、プロセスを踏んで就任したトップが常に優れているかといえば、そうとは言い切れないのが面白いところなのだ。どう見てもトップ向きではない人物が重責を担った瞬間に変貌することもあれば、周囲から嘱望されてトップに立った人物がまるで役立たずということもある。
ファーストリテイリング時代、副社長というポジションにいた私は、柳井正さんからトップになることを打診されたがお断りした。そこで柳井さんは玉塚元一君をトップに据えたわけだが、私はあの人事は正解だったといまでも思っている。あの難局に立ち向かえるメンタリティーの持ち主は、玉塚君以外にいなかった。そして玉塚君は、ご存じの通り、プロセスを踏んだトップではなかった。
つまり、トップを客観的に選抜する仕組みさえつくれば会社がうまく回るわけでもないのだ。そんなことを言われたら、平社員はますます何をしても無駄だと思うかもしれないが、そうではない。心底会社を愛しているならば、改善策を携えて社長室に直訴に行けばいいし、そこまでの愛情がないなら、見切りをつけて転職先を探せばいい。それも嫌なら、居酒屋で同僚と愚痴をこぼせばいい。
会社の99.9%がトップで決まるのは事実だが、その事実にどう対峙するかを決めるのは、常に自分なのだ。
上智大学卒業後、1981年伊藤忠商事入社。米国セブン-イレブンの買収等に携わる。97年ファーストリテイリング入社。常務取締役を経て、98年副社長に就任。2003年2月キアコン設立、代表取締役社長に就任。05年10月リヴァンプ設立、代表取締役に就任。