高齢化は過疎地から都市部の問題になる

これから日本は世界でも前例のないスピードで高齢化が進む。そのとき大きな課題となるのが「医療」と「介護」である。これにどう備えるか。その有力な選択肢の1つが、老後移住である。

2014年7月、安倍晋三首相は、「まち・ひと・しごと創生本部」に関する記者会見で「大都市圏から地方への移住の必要性」を繰り返し強調した。それだけ状況が逼迫していることの証左だ。

なぜ高齢化の進んでいる地方に移住するのか。その点を理解するには、今後わが国で進展する急速な人口構造の変化を理解する必要がある。

日本では高齢化が進む。国の推計によれば、2010年からの30年間で、0~64歳は約3000万人減少する一方で、75歳以上の後期高齢者は約800万人も増える。「団塊の世代」が75歳前後となる2020年から2025年が後期高齢者増加のピークで、その後期高齢者も、2030年を過ぎるとゆっくりと減少し始めると同時に、死亡者数が急激に増え、この頃より日本の人口が急速に減少し始める。

このような人口構造の劇的な変化が起きる背景には、1955年から1970年の15年間に、地方から三大都市圏に約800万人の若者が移り住んだことがある。その結果、過疎地域では先行する形で高齢化が進んだ。

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これから若年層が激減、高齢者が急増

20世紀は、高齢化と過疎化はイコールだった。現状ではまだ地方のほうが都市部よりも高齢化率が高いため、そのイメージに引きずられがちだが、現実には2005年ごろから都市部の高齢化が急速に進み、逆に地方の高齢化率の伸びが緩やかになっている。高齢化は過疎地から都市部の問題になりつつある。

今後30年間に増加する800万人の後期高齢者は、その半数以上が日本の国土面積のわずか2%に相当する首都圏、大阪圏、名古屋圏に集中する。今後、大都市では爆発的に増加する後期高齢者への対策が急務になる。そうした背景のなかで、個人でとれる対策のひとつが、医療や介護の施設の収容能力が急速に低下する大都市圏から、これから高齢者が減少して余裕がうまれてくる地方への「老後移住」なのだ。

今回、プレジデント編集部では、国際医療福祉大学の高橋泰教授が公開している「2次医療圏データベース」をもとに、医療と介護の見通しについて独自に分析を行った。三大都市圏について2030年時点での「医師不足」と「介護難民」の危機レベルを2次医療圏ごとに示した。2次医療圏とは、厚生労働省が医療法にもとづき、入院ベッド数などに応じて複数の市町村を1つの単位にまとめたもの。これからは、ほかの2次医療圏と比較して、医療需要のピークがいつ来るのか、施設や人員のレベルは充実しているかなど、地域の特性を踏まえた対応がなによりも重要になる。