質の追究めがけ一直線の推進力

最初の配属先は、水道やトイレ用の蛇口などをつくる愛知県・半田の工場だ。2年後、上から課題が下りてきた。当時の蛇口は水か湯が出るだけだったが、湯と水を混ぜて目盛りの温度通りに出る自動装置をつくれ、という。シャワーの普及が進み始めたころだった。だが、先輩たちがいろいろやっても、なかなかできない。みていて、「僕だったら、できますよ」と口に出た。「じゃあ、やってみろよ」となる。若造でも、チャンスはくれる職場だった。

大学で使った本を何冊か職場へ持ち込み、基礎から考えていたら、上司が近寄ってきて「何をやっとる。机に座って本を読んどって、仕事になるか。現場へいけ」と怒られた。だが、いくべき現場もない。自分で考え抜き、初のサーモスタット混合水栓を開発する。そんな職人気質にもまれた後、常滑の本社地区に集約された開発拠点へ異動する。以後、一貫してそこですごし、手を出すと自動的に水が出る蛇口も開発した。

2007年6月、社長に就任すると、経営の旗印に「質の追究」を掲げる。抗菌トイレの開発以来、追い続けてきたことの仕上げだ。その意図を、社内報で、自ら説明する。要約すれば、商品やサービスを通じて人々の生活の質の向上に貢献し、能力や特徴を生かして公に奉ずる「活私奉公」を仕事の本質とする。他では手に入らない魅力的なモノを、納得できる価格で提供できる企業になる――などなどだ。

川本流は、まず目標として理想型を描き、それを、自信を持って部下たちに伝える。そして、それぞれの持ち場で力を発揮させ、目標に向かってベクトルを合わせていく。そこでは、他人の意見に気を遣って自分の考えを変えることはない。まっしぐらの推進力が最大の特徴で、40代では追従型の風土を打ち消し、社長としての第一声も生んだ源泉だ。

次も同様だ。翌08年4月、環境対応やISOの獲得などをやっていた環境戦略部を改組し、研究者も加えたサステナブル・イノベーション部を新設した。併せて「2050年にCO2排出量を80%削減します」との宣言を出す。その心は「2050年になっても社会から認知され、存在価値を認められる会社にしよう」との決意表明だ。

化石燃料を使わない焼き物技術にめどを付ける、水の全く要らないトイレを開発する、湯がほとんど要らない風呂をつくる、リフォーム事業で古い製品を徹底的に回収し、再利用を進める――そんな目標例も示す。メーカーの本分である技術で、社会に何の貢献ができるのか。全社に、イノベーションで技術を磨き上げることを求めた。

社員たちにも、ときには「会社の価値とは何か」を考えてほしい。2050年の目標など、誰も、自分からは考えないだろう。でも、もし会社が2050年にも残っているとしたら、何か本質的な価値があるからこそのはず。では、その本質的な価値とは何か。哲学問答のようだが、それを考えることで、INAXの将来を考え直す契機にしたい。

2008年の宣言は「環境」という形をとってはいるが、そんな思いを強く込めたつもりだ。

(聞き手=街風隆雄 撮影=門間新弥)