ガルブレイスは資本主義の暴走をチェックする仕組みとして、消費者団体や労組をとりわけ重視した。しかし、今回の金融危機の背景を見ると、ガルブレイスはあまりに楽観的だったといわざるをえない。米国の消費者団体や労組は資本主義の暴走に対し、ほとんど何もできなかったからだ。

それよりも、資本主義にとって最大の批判者であった社会主義はなぜ崩壊したのだろうか。僕は60年代以降、旧ソ連との間で事業や文化交流を進めてきた。観察の結果いえることは、社会主義のほうが資本主義に先んじて堕落していたということだ。

86年、自国の農業生産性のあまりの低さに危機感を抱いたソ連首脳の求めで、僕は日本の農協やゼネコン、農薬メーカーなどの専門家からなる訪ソ農業協力代表団を組織した。ところが、ゴルバチョフ書記長をはじめとするソ連共産党指導部の意気込みとは裏腹に、現場の官僚機構にはまったく動く気配がない。

資本主義への「批判者」労働組合の組織率は低下が続く
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資本主義への「批判者」労働組合の組織率は低下が続く

たとえばコルホーズ(集団農場)の収穫物集積所に屋根を架けてはどうかという日本側のシンプルな提案に対して、ソ連側は鉄工省、石油化学工業省、農業省、国家計画委員会の権限が複雑に絡まり合うので、表面的には合意を見ても実際には何事も前には進まないのである。その一方、ソ連社会では縁故による不正が横行していた。

では、どこに希望を見つけることができるだろうか。

堕落をもたらすのは思考の単一化である。日本でも国益より省益、省益より部門益を求めて突き進むのは受験勉強一本やりで高級官僚になった人たちである。民間のサラリーマンもその相似形であることに変わりはない。しかし、低成長時代に入って、複眼的な思考のできる若い人たちが増えてきているように思う。

部門益に絶対の忠誠を誓うのではなく、もっと広く国益や普遍的な常識に則った判断をする人が増えること。これこそが、堕落を防ぐ第一の条件であると僕は思う。

※すべて雑誌掲載当時

(面澤淳市=構成 ミヤジシンゴ=撮影)