値下げしても需要拡大はできない

<strong>成城石井社長 大久保恒夫</strong>●早稲田大学卒。イトーヨーカ堂を経て、ファーストリテイリング等のコンサルティングを手がける。2007年より現職。
成城石井社長 大久保恒夫●早稲田大学卒。イトーヨーカ堂を経て、ファーストリテイリング等のコンサルティングを手がける。2007年より現職。

私の経験上、ディスカウントをして売り上げが伸びたことはない。価格を下げると確かに一時的には売り上げが上がる。たとえば1リットルの醤油を198円から158円に値下げすると、その直後はよく売れる。しかし数量はそのうち元に戻り、売り上げは下がっていく。要は将来の売り上げを先食いしただけで、ディスカウントで需要拡大はできないのだ。

そもそも小売業の価格はチラシで丸見えになっており、値下げをしてもすぐに他社が追随してくる。安売り合戦になると、体力のない店に勝ち目はない。

では、価格を下げずに売り上げおよび利益を伸ばすにはどうすればいいのか。それにはまず「あの店が好き」というファン、つまり固定客を増やすことだ。固定客をつくるというと会員カードの発行を思いつくかもしれないが、お客様はすでにたくさんカードを持っており、それだけでは効果がない。

「あの店、なんだか感じがいい」と思ってくれる人を増やすには、挨拶やクレンリネス(清潔さ)、品切れの削減といった基本を徹底するのが一番。お客様がその店舗に行かなくなる理由は
「価格が高い」「品揃え・品質が悪い」に加えて、「店員の感じが悪かった」というものだが、この「感じ」というのが実は重要なのだ。科学的な根拠はないが、挨拶を徹底すればクレームが減り、逆にお褒めの言葉が増えている。これは成城石井でもドラッグイレブンでも実証済みだ。

こうした小売業の基本を徹底したうえで、価格を下げずに売れる商品を開発すること。といってもNB(ナショナルブランド)商品では価格を高く設定することはできない。よその店にはない価値のあるオリジナル商品を開発し、その価値にふさわしい価格で売る。生産段階にまで踏み込み、できるだけ商社や卸を通さず高品質で仕入れ値が安い商品を仕入れ、売り切るリスクを負うことだ。