再審に必要なものは「新証拠」なのか

こうした数多くの疑惑、疑問について、過去の裁判で審議され、その謎が解明されたとはとうてい思えない。

再審に必要なものは「新証拠」であって、すでに提出された証拠は、「充分に審議された」として顧みられることはない。それが、わが国司法界の常識とされているようだ。

冤罪の事例を詳らかに吟味すれば、いかに不合理な事実が存在したとしても、「自白」を盾に踏み倒し、無視される例が少なくない。「袴田事件」にいたっては、そのような証拠は枚挙に暇ないほどである。

袴田さんは、元プロボクサーで、過酷な練習や絶食にも耐えた経験をもっている。そんな袴田さんでさえ、自白調書に指印を押さざるを得なかったのだから、当時の自白強要がいかに酷いものであったか。詳細は拙著『袴田事件』(プレジデント社刊)に述べたので略すが、今回の「大阪女児死亡火災」も、背景には自白の強要があったとされている。程度の差はあるにせよ、そうした自白偏重、強要が20年前にも存在したことを想定させる。

再審が決定しても、開始されるまでには時間がかかる。

免田事件をはじめとして、再審が開始された事件はわずか8例しかない。そのなかには、まだ「袴田事件」は含まれていない。

釈放されたものの、袴田さんは一時期体調を崩し、入院された。現在79歳。一刻も早い再審の開始を望む。

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