――ドン・キホーテという企業・業態における最大の強みは、何といってもその「オンリーワン性」にある。これだけ成功したビジネスモデルであるにもかかわらず、いまだライバル企業が出現していないからだ。
【安田】通常、この業界でサクセス業態が登場すると、われもわれもとそのコピー業態が後続参入して、あっという間に「業界」が出来上がる。郊外紳士服業界しかり、コンビニエンスストア業界やドラッグストア業界しかりだ。ところがドン・キホーテにはそれがない。当社のカテゴリーは、「業態あって業界なし」だといえる。
なぜドンキに後続モデルが出ないのか。マネができないからだ。その最たる理由は、(先ほど述べた)「権限委譲による個人商店主システム」を実現しながら、そのシステムを多店舗で運用しているところにある。
ドンキはある意味で、チェーンストア(本部がコントロールする標準化したシステムによって多店舗展開する小売業態)の対極に位置する、難解かつ複雑な「属人的」企業であり業態である。だからコピーできない。
危機を迎えるたびに、乗り越え成長してきた
――ドン・キホーテは府中の1号店以来26期連続の増収増益で、数字上は順風満帆に見える。だが現在に至るまでは紆余曲折の連続で、企業存亡の危機に見舞われたのは1度や2度ではない。たとえば90年代末には、出店や深夜営業に対する住民反対運動が勃発したし、04年には一連の店舗放火事件により、ドンキに対する執拗なネガティブキャンペーンが張られた。
【安田】危機に陥るたびに、それを脱して立ち上がり、さらなる成長拡大を遂げるという繰り返しが、これまでのドン・キホーテの歴史だった。振り返ってみると、大きな危機に陥るほど、その後大きく成長した。だから危機はいわば、「成長痛」のようなものだったのかもしれない。
それに自慢じゃないが、私ほど数多くの失敗をし、危機に直面し、それをくぐり抜けてきた経営者はいないだろう。だから、とにかく打たれ強い。少なくとも土俵際で踏ん張って、立ち直るパワーに関しては、誰にも負けない自信がある。
なぜパワーが出るかといえば、自分の家族同様、いや、ある意味それ以上に愛する存在である「わが子ドン・キホーテ」のためだからだ。