資料は見せ方が大事ということはわかっていても、デザイナーではないので、なかなか上手くはいかない。「中身がよけりゃ、見てくれなんて関係ねーよ!」と思いたくなる気持ちもわかる。

ビジネス文書のデザイン性について、デザインと心理のユニークな研究をしている千葉大学大学院工学研究科の日比野治雄教授に聞いてみた。

ひとことでセンスといっても、人によって好き嫌いの感覚は異なる。そこで、どのデザインが優れているかを心理学の手法を使って数値化して示したのが日比野教授の研究だ。

「たとえば病院で使う薬品のパッケージ。たくさんのクスリのなかから特定のものを見つけるのに、AとBどちらのパッケージデザインのほうが、早く、しかも間違わずに手に取ることができるか。心理学の実験ではビジュアルサーチ(視覚探索)といいますが、これを応用してデザインの評価に使ってみたのです」

確かに劇薬の取り扱いもあるクスリのパッケージデザインは命にかかわる問題だ。

身近なところでアンケート用紙を例にとろう。住所、氏名、年齢、職業……、同じ内容を書き込んでもらう場合でも、書式のフォーマットによって書き終える時間は大きく変わる。

「書く人がどういう目の動きをするかを測定し、自然に誘導できるデザインであれば、負荷が少なく、すんなりと記入してもらえます。感性的なものといわれていたデザインですが、世界的には科学的根拠のあるエビデンスベーストデザインが重要だという流れです」

ビジネス文書のデザインも同じことだと日比野教授は言う。

「誤読を防ぐためにワードなどを使ったテキスト中心の資料は可読性の高い書体、パワーポイントなどスライドなどを使った資料は視認性の高い書体が求められます。

行間隔ですと、文字の量にもよりますが、基本的に文字の大きさの50~75%ぐらい間があいているのが、眼球の動きが一番スムーズです。文字の間隔は文字の大きさの25%くらいの開きが読みやすいということがデータから判明しています」

1行当たりの文字数も多すぎると読みにくい。次の行に移る際に視線の動きのストロークが長くなり、行頭を探すのに手間取り、書いてある内容に集中できなくなるのだ。

「人が1秒間に読めるのは8~9文字。人間の視覚の特性を考えて作らないと、読む人には伝わらないのです」