工務店の強みと大手の強みを融合
早速、魚谷氏はファクスで紹介されていた“あるシステム”を導入し、営業を開始した。すると驚いたことに、すぐに1棟の注文がとれたのである。それから快進撃は続く。素人同然にもかかわらず、競合する地場、大手をよそに、初年度になんと11棟の注文を勝ち取った。まさに起死回生だった。それから10年。会社は鳥取西部地域でナンバーワンの施工数を誇るまでに成長した。果たして魚谷氏をどん底から救った、あるシステムこそ、アキュラシステムだったのだ。
もともと工務店では注文住宅を建てる場合、まずサッシ、板材など各業者別に、それぞれとった見積もりを足して原価を出し、それに利益をのせて客に見積もりを出すという方式をとっていた。そのため、現場は手づくりであるものの、予算はドンブリ勘定で、見積書1つつくるのにも2週間ほどの時間を要していた。
一方、大手メーカーなら大量仕入れ、大量生産によって部品パーツを標準化しているため、コストも安く、見積書作成のスピードも速い。それに大量宣伝によるブランド力、大量動員による営業力もある。工務店は多くの面でどうしても大手の後塵を拝さざるをえなかった。
ところが、宮沢氏が開発した「アキュラシステム」は、工務店に大手並みの合理化をもたらした。部材は標準化され性能が安定、単価も下がり、見積もりは30分。工事も今まで1人で2棟しかできなかったものが5棟でき、現場管理もスムーズ。工賃も下がり、営業経費も下がり、粗利が増えた。そこには、もちろん手づくりの良さも残されている。
「例えば、押し入れの中のつくりにこだわる人はいないですよね。そうしたものは大手のように標準化し、工務店の持つ手づくりの良さが発揮できるところは、お客様や地域の気候風土に合わせて自由設計できるようにしたのです。ドンブリ勘定を排除し、工務店の存在意義を見つめ直す。だからこそ、お客様が何を望んでいるのかしっかり考えられるのです」
そう語る宮沢氏は98年、この「アキュラシステム」をもとに全国の地域密着型工務店、中小住宅メーカーを結ぶ連合体のネットワークをつくる。それが「ジャーブネット」(旧アキュラネット)だ。しかも画一化した商品の押しつけや下請け構造、ロイヤリティなどが発生するフランチャイズチェーン(FC)ではなく、緩やかな連合体として機能するボランタリーチェーン(VC)の体制を採っているため、拘束力はなく独立自営。会員工務店は自社の名前で商売ができるのだ。