「クラフト」は時代の要請?
しかし、2000年代の後半からビールを取り巻く環境は徐々に変わっていきました。国内市場においては2つのポイントが挙げられます。1つは「プレミアム」を受け入れる層が増えていったことです。サントリーの「ザ・プレミアム・モルツ」の大ヒットはまさにその代表例ですが、ビールに限らず「ちょっと高くても、いいものを楽しみたい」と考える人が増えていきました。
そしてもう1つのポイントは「新しいアルコール」を求める動きが、主に飲食店の関係者から強まっていたことです。飲食業界とトレンドは切っても切れませんが、食べ物に限らずお酒にもブームが存在します。2000年代前半には芋焼酎が爆発的な人気を獲得し、その後、日本酒地酒やシャンパン、梅酒などの瞬間的なブレイクを経て、2010年頃からは街にワインバルが溢れるようになりました。結果的には今に至るまでワインが多くの飲食店にとっての核となる商材となっています。しかし次なる動きを狙う関係者の間では、数年前からワインに代わる「新しいアルコール」としてプレミアムなビールに注目が集まっていたのです。
そして日本に新しいビールが普及することを決定づけたのが、アメリカでのクラフトビールのブームです。お酒に興味のない人は、アメリカのビールと言えば「バドワイザー」に代表される、水のようにがぶがぶ飲むタイプのヤツでしょ、と思っている人も多いことでしょう。しかし、実はアメリカでは、個性的な造り手が小規模で生産するクラフトビールがじわじわと人気を集めるようになっていたのです。
クラフトとは「手芸品・工芸品」という意味ですが、そこには大手メーカーが大量生産の「工業製品」として造るビールとは違うんだという造り手のプライドが込められていると言えるでしょう。イメージとしては小規模ワイナリーに近いかもしれません。