スクリーニングとピラミッディングの違いとは
ピラミッディングがこの実験と違うのは2点。「小さな世界」実験では手紙を送るほうは受取人と「知り合い関係」にないといけないが、ピラミッディングでは回答者は紹介する人物のことを単に知っているだけでよい。もう一つは、実験では、手紙の送り手は知り合いに手紙を転送する(送る)モチベーションが必要になるが、ピラミッディングでは実際の聞き取りは調査担当者が行うので、モチベーションが問題になりにくい。つまりピラミッディングは「小さな世界」実験より実行しやすいのだ。
ではピラミッディングは実際、どの程度、効率的な探索方法なのだろうか。フォン・ヒッペルを中心とした研究チームはスクリーニングとの比較でそれを明らかにした(Research Policy、2009年38巻)。
彼らは結果ができるだけ一般性を持つように教師、学生、合唱団、フットボールチームという会合の目的、頻度、年齢、男女比の点でバラつきのある33~41人の集団に協力してもらった。協力者には登山歴(登った山で最高の高さ)、ジャズ(ジャズCD所有数)、視力(視力の低さ)、交通事故歴(回数)、入院歴(日数)、住んでいるアパート(面積)という話題について質問した。例えばジャズならジャズCDを持っている枚数と誰がジャズCDを一番所有していると思うかを尋ねた。つまり、話題についての協力者自身の情報とその質問について最高値を持つ人に対する協力者の推測を紙に記入してもらった。
質問について最高値を持つ人を探すのにスクリーニングは全数調査なので集団の人数分コンタクトする必要がある。それに対してピラミッディングでは最高値を持つと回答者が推測した人を順にたどって最高値を持つ人を探す。ピラミッディングで節約されたコンタクト数を計算するには、最高値を持つ人にたどりつくまで何人の回答をたどればよいかを数え集団の人数と比べればよい。フォン・ヒッペルらは記入された回答をもとに、最初に回答を見る回答者をランダムに決めて最高値保持者までのルートをたどるシミュレーションを行った。
実験結果はピラミッディングのほうがスクリーニングよりも効率的だというものだった。スクリーニングに比べて10~40%、平均28.4%のコンタクト数で最高値保持者を探し出せたのである。
この実験では回答者への事前知識なしで最初の接触者を決めているが、実際の探索では目標人物を知っていそうな人から探索を始めるはずだ。だとすればより少ない努力で目標人物をつきとめることができるだろう。接触の結果、思いもよらなかった分野のリードユーザーを紹介してもらえることもあるだろう。さらに、目標人物の名声や回答者の話題に対する関心が高い場合もコンタクト数を削減できることが実験結果からわかっている。
こうしてユーザー間の関係を探索に活かすことでリードユーザーを効率的に見つけ出すことができる。リードユーザー発見の道はすでに開けているのだ。