前述のフルメタル電波時計で実証されたように、一般の家電製品と違って、「ファッション性を兼ね備えた技術と美の融合」が永遠の課題となる時計は、ピリオドのない技術革新という点で「終わりなき戦い」の世界なのだ。

そして現在、シチズンの最新技術になっているのが価格20万円程度の「GPSウォッチ」だ。地球の上空にある衛星から信号を受信して、世界中どこでも正確な時刻を知ることができ、スイス勢が実現できていない技術である。

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(上)ヒット商品が続いて平均単価も上昇中(下)シチズンの最新技術を搭載したGPS衛星電波時計「エコ・ドライブ サテライト ウエーブ」。

「国内時計3社(シチズン、セイコー、カシオ)が今競っているのがGPSウォッチで、我々はサテライト ウエーブと呼んでいますが、11年、一番最初に市場に投入したのは我々です」(竹内)

「高機能クォーツ時計を中価格帯で提供する」という、伝統的な機械式時計が中心のスイス勢とは異なった独自の戦略で、また一つ、シチズンブランドの柱を確立することができたのだ。

スマートウォッチという黒船が到来

15年春、日本とスイスの独壇場と考えられてきた時計産業に、新たな“爆弾”が投じられた。スマートフォンで世界を席巻したアップルが満を持して発売に踏み切った「アップルウォッチ」だ。今後の市場動向によっては、時計業界の大きな脅威になるかもしれない。

社長の戸倉は厳しい表情でこう語る。

「アップルウォッチは革新的。関係ないなんて到底言えないし、どういう時計を自分たちは提供できるのか、原点に返ってやらないと駄目だと社内で厳しく言っています」

冒頭のラオックス銀座本店の事例でわかるように、シチズンは中国人に大人気のブランドだ。15億という世界一の人口を有し、GDP(国内総生産)世界第2位の経済大国となった中国では、国民の所得向上が著しい。中国人の消費行動には「面子や見栄を大事にする」という特徴があるが、「高機能・高品質の日本製高級腕時計は、中国人『見栄』消費にズバリはまっている」(前出のシチズンの営業マン)という。

1918(大正7)年創業のシチズンは、3年後の2018年に満100周年を迎える。「シチズン」の社名の由来は、「市民に愛され親しまれる」だ。果たして、中国人をはじめとする世界の市民は、デジタルのスマートウォッチと針の時計のどちらを選ぶのだろうか。挑戦は終わらない。

(文中敬称略)

シチズンホールディングス 代表取締役社長 戸倉敏夫
1949年、東京都生まれ。73年早稲田大学教育学部卒業、シチズン商事(現シチズンホールディングス)入社。2002年同社取締役、04年シチズン時計(現シチズンホールディングス)執行役員、07年同社常務取締役、09年同社専務取締役、10年シチズンホールディングス常務取締役を経て、12年より現職。
(榊 智朗=撮影 大橋昭一=図版作成(エコ・ドライブ))
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