最終的には、全社の意見がまとまって恐る恐る「5万円」の値付けをしたのだが、空前の大ヒットとなった。「高くても売れるんだ」という成功体験が、「シチズン独自の技術をブランド化する」という流れを大きく加速させていったのだ。
国内営業一筋の村上恵信国内時計営業本部第一営業部長は、このヒット商品について感慨深げに話す。
「これは非常に大きいブレークスルーになりました。シチズンの技術力の高さを物語ると同時に、フルメタル電波でもNHKの時報と変わらない精度を持つ点が、新しい物を欲しがる男性の心にグサッと刺さったんです。それで、5万円という価格帯にもかかわらず、その壁をいとも簡単に越えていった」
エコ・ドライブのブランド化に成功
もう一つ、シチズンが自社のブランディングに活用しようと思い定めた代表的な独自技術がある。冒頭で中国人に人気だった「エコ・ドライブ」というソーラー発電機能である。
エコ・ドライブは、太陽光や蛍光灯などの光をエネルギー源にして、時計を動かす技術だ。文字盤を透過した光を内蔵した太陽電池(ソーラーセル)で電気エネルギーに変換し、それを二次電池に蓄えて時を刻む仕組みだ。
シチズンはまだ世の中が環境問題に今日ほど関心が高くなかった76年にこの技術を開発し、地球上どこでも光さえあれば動き続ける時計を進化させてきた。
入社以来、エコ・ドライブの開発一筋できた時計開発事業部の福田正己時計開発部長は、エコ・ドライブの革新性をこう話す。
「太陽電池の上に普通の文字盤を載せると、光が通らなかった。そこで、外見は普通の文字盤なのに、実はそこを光が通って十分に時計を動かすだけの電力を確保できるようにしました。もちろん、時計自身の消費電力を下げる工夫をしながらです」
このような革新的技術によって、「進化を続けるクォーツ時計」が自分たちの生き残る道だと思いを決めたシチズン。00年代半ば以降、「最新技術を搭載した」高機能クォーツ時計の開発・製造に力を注ぎつつ、「メード・イン・ジャパン」の信頼性を核にしたブランドイメージの強化を図っていく。
ブランディングの一環として、特に力を入れたことの一つがデザイン力の強化だ。08年に東京・表参道にデザインスタジオを設けて、常に5人の部員を常駐させながら、トレンドやファッションの変化を追っている。15年には戸倉がデザイン部を社長直轄の組織にし、デザインを経営上の最重要課題の一つに位置付けている。