セイコー、シチズン、カシオの国内時計大手が業績好調だ。彼らは、高級腕時計市場を支配するスイス勢にどう対抗したのか? 「技術のシチズン」と呼ばれてきた生真面目なメーカーの変身物語。
中国人が銀座で高級時計を爆買い
東京・銀座7丁目の中央通りに面したラオックスの大型免税店。次々に到着する観光バスから降りてくる中国人が、吸い込まれるように店内に入っていく。
入り口脇の特等席にシチズンの時計コーナーがあり、カウンターをはさんで客と店員とのやり取りが繰り広げられる。「手前のを取って」「その隣のも」――客の指示を受けて店員がケースから時計を取り出すや、説明もそこそこにあっという間に買われていった。中国出身のシチズンの営業マンは、日々の様子をこう話す。
「一度に5、6個の時計を買う人はザラですね。5万円ぐらいまでの、ソーラー発電機能エコ・ドライブを搭載した機種などが人気で、これらは親戚や友人へのお土産用。自分用には10万円の上位機種や、エコ・ドライブに加えて衛星電波受信機能も付いた20万円の最高級モデルを買い求められる方が多いです」
中国人が“爆買い”する「高級腕時計」の価格は安いもので5万~10万円程度、高いものになると50万~100万円超にもなる。我々の腕にはめるこの小さな時計に、かように高い値段がつけられ、それでもよく買われていくのは、「超精密加工技術の粋を集めてつくられた高級品」という認識が消費者にあるからだろう。
その市場は、伝統的に150~200年以上の歴史を持つスイスメーカーがリードしており、100年程度の歴史しかない日本メーカーは長らくその後塵を拝してきた。だが1960年代の高度経済成長期に入ると、「スイスに追いつき追い越せ」を合言葉に、日本勢は時計先進国のスイスと精度や機能を競い合うまでに成長する。
そして70年代前半、日本メーカーは、世界の時計業界に激震ともいえる技術革新の波を起こし、一時期、世界を制覇した過去がある。世にいう「クォーツショック」のことだ。セイコーが開発した「クォーツ」というまったく新しい時計の駆動装置が、それまで世界の主流だったゼンマイと歯車によって動く「機械式」の駆動装置に比べて、圧倒的に正確だったのだ。日本製クォーツ時計は瞬く間に世界の市場を制覇し、伝統的なスイス製の機械式時計は駆逐されていった。
クォーツ時計のメーカーとして世界を制覇していた頃のシチズンについて、同社の竹内則夫取締役は語る。
「シチズンが開発した『2035』というクォーツ時計用のムーブメント」(時計の駆動装置)があるんですよ。世界で最も多く生産され、時計業界のデファクトスタンダード(事実上の標準)になったほどの製品です」