企業統治改革は景気回復の切り札か
これに対し、企業統治改革での社外取締役の位置づけは、これまでと180度異なる。社外の視点から経営陣に企業価値の向上を促す、いわば「攻めの経営」へのアドバイザーとしての役回りを求めているからだ。
成長戦略で掲げた企業の「稼ぐ力」を引き出すため、たとえば、内部留保を切り崩し、設備投資や賃上げに回すことを取締役会で提案する。これで企業価値が高まれば、アベノミクスの“生命線”とも言える株価の上昇につながるだけに、企業統治改革は経済の好循環実現への切り札として期待されていた。
ところが、「東芝ショック」はそんな安倍政権の目論見を打ち消しかねない。なぜなら、東芝は2003年に業務執行と監督の機能を分け、経営の透明度が高い委員会等設置会社に日本でいち早く移行した、企業統治の“優等生”だったからにほかならない。しかし、4人の社外取締役も機能せず、経営陣が関与する不適正会計処理問題に発展してしまった。
これによって、「攻めの経営」を顕著にした企業統治改革は軌道修正を余儀なくされ、再び「守り」の企業統治に時計の針を戻されかねない可能性も強まった。現に、金融庁と東京証券取引所は8月7日、「東芝ショック」を受け、企業統治向上策を企業経営者や国内外の投資家、学識経験者らで再考する「フォローアップ会議」を設置し、9月に初会合を開催すると発表した。
「日本の市場への信頼性を失いかねない」と危機感を募らせた麻生太郎副総理・財務・金融相の意向も働いたようで、制度を整えても企業統治が実際に機能していない点などが検証されるとみられる。確かなことは、東芝という名門企業の腐敗が、企業統治改革、引いては手詰まり感が濃いアベノミクスにとって大きな痛打に成りかねないという事実だろう。