さて、今、日本人が英語に熱心になり始めているのは、基本的に、『マイ・フェア・レディ』で、花売り娘が上流階級の英語を身につけようとした動機と同じ理由であろう。「より良い生活」へのパスポートとしての英語。いわば、経済的理由である。
逆に言えば、戦後長きにわたり、受験英語はともかくとして、英語が流暢になることは、平均的日本人にとって必ずしも「より良い収入」につながらなかった。ヘタに「国際派」になるより、国内のヒエラルキーで偉くなるほうが、社会的評価も「実入り」も良かったのである。
時代は変わった。経済のグローバル化にともなって、英語ができる、できないが、そのまま収入の格差につながりかねない時代である。かつて外国大学卒は就活で不利だったが、今ではむしろ優遇されるくらい。機を見るに敏な教育ママたちも、眼の色が変わって、わが子に英語を(しかも、受験英語ではなく、実際に使える英語を)学ばせようと必死である。
英語学習への動機づけは、経済的なもの。しかし、本当に英語を習得しようと思ったら、単に「お金になる」というだけでは脳が「本気」になりにくい。『マイ・フェア・レディ』が参考になるのは、この点であろう。英語圏の文学、歴史、思想などに深い興味を抱くことが、結局は英語習得の近道になる。
私自身、日本人の中ではかなり英語ができるほうだと思うが、英語圏の文化に興味を持ったことが英語上達のきっかけになったように思う。
(写真=AP/AFLO)