台本がホコリをかぶっていないか

よく見受けられるのは、危機に際して協力体制を組むように訓練を受けた主要マネジャーの多くが会社を辞めているのに、後任者には危機の際の任務が引き継がれていないというケースである。危機における情報伝達についての計画を日常的に更新することが重要だ。

危機対応戦略の策定と高度化には幾つかのステップがある。第1は危機発生が予想される分野の特定である。Institute for Crisis Management(ケンタッキー州)のラリー・スミス所長は、危機情報管理計画の策定に当たって、顧客企業と一緒に予想される危機を6~12に大まかに分類することから始めている。

上場企業ならば、重役の死亡や病気、事故による経営能力の喪失、法的・倫理的問題、職場における暴力行為、テロ、労働争議、暴露記事などが危機に数えられよう。また、従業員の傷害、集団訴訟、リコール、管理上のミス、ホワイトカラー犯罪、製造・流通段階における問題なども含まれる。

以下は、危機対応戦略の基本ステップである。

[1]情報を真っ先に伝えるべき相手がだれかを決定する

スミスは、多くの企業が危機発生の情報の最初の伝達相手をマスコミだと思い込む間違いを犯していると指摘している。「マスコミは情報を伝えるべき相手ではなく、伝えたい相手に情報を伝えるためのパイプである。ほとんどの場合、社員こそが第一に、あるいは第二に情報を伝達すべき重要な存在だ」。情報を知らされなければ社員は疎外感を抱くだけでなく、この会社は危機を乗り越えることができないのではないかと疑い始める。こうした疑念を抱かせない唯一の方法は、彼らに情報を間断なく伝えることにつきる。

[2]社員に対し、社外からの質問にどのように返答すべきかを教える

特に大切なのは、コールセンターで働く社員が話すべき内容を心得ていることだ。エッジウオーター・テクノロジー社のマサチューセッツ州にある工場で、2001年末に起きた銃乱射事件(7人の死者が出た)で同社は事件直後に社員と犠牲者の家族を情報伝達の第一対象と定め、彼らに情報を伝える努力を直ちに開始した。一方で、顧客への対応も徹底した。「銃乱射事件が起こった翌日には営業担当社員が顧客企業に電話し、滞る可能性のある業務、問題のない業務について明確に伝えた。顧客たちは異口同音に「気にするな、なにか手伝えることはないか」と応えたそうだ。

[3]マスコミには慎重に接する

カーター元大統領の報道官を務めたジョディ・パウエルは60:40の戦略を勧めている。「仮に、あるレポーターが会社に不利な記事を書こうとしているとしよう。情報担当責任者の努力次第で、90%マイナス、10%プラスになるはずの記事を60%マイナス、40%プラスの記事に書き換えさせることも可能なのだ」。