落としどころを探す聞きまくり調査

<strong>佐藤尚之●クリエイティブ・ディレクター</strong><br>
1961年、東京生まれ。広告会社勤務。現在、クリエイティブ・ディレクターを務める。最新刊にベストセラーとなった『明日の広告』があるほか、「さとなお」の名前で『人生ピロピロ』『沖縄上手な旅ごはん』など著書多数。<br>
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写真:『明日の広告』は広告関係者だけでなく、企画・開発から営業・販促担当者まで幅広い層の人に読んでほしい良書だ。『人生ピロピロ』からはクリエーターが日頃何を考えているかがわかる。

佐藤尚之●クリエイティブ・ディレクター 1961年、東京生まれ。広告会社勤務。現在、クリエイティブ・ディレクターを務める。最新刊にベストセラーとなった『明日の広告』があるほか、「さとなお」の名前で『人生ピロピロ』『沖縄上手な旅ごはん』など著書多数。 写真:『明日の広告』は広告関係者だけでなく、企画・開発から営業・販促担当者まで幅広い層の人に読んでほしい良書だ。『人生ピロピロ』からはクリエーターが日頃何を考えているかがわかる。

しかし、多くの送り手は意識が変化していない。「いいモノを作ってさえいれば、必ず売れる」という10年以上も前の成功体験を捨てきれない人が、経営の中枢を握っているせいなのかもしれない。確かにいいモノを作ることは重要だ。しかし、消費者が買いたいモノとは限らず、それでは疑り深い消費者の心は開けない。

これまでは商品の企画というと、定量的、間接的なマーケティングデータから消費者のニーズを捉えようとしてきた。でも、その対象は、あらかじめ作り手本位で決めた「買わせたい人」の層でしかなく、自ずと限界がある。これからは企画の段階から消費者と直接コミュニケーションを取り、「買いたい人」の具体的な姿を捉えていくことが大切だと思う。

そこで私が行っているのが「聞きまくり調査」だ。若者向けの新車を企画するのでも、どんなことに関心を持っているのかを彼らに聞いてみる。すると「車はデートの必需品ではない」「携帯電話の支払いで精一杯で車など買えない」など意外な答えが返ってくる。そうやって「これでもか」と思うくらい相手を観察していくと、予想外の“落としどころ”“切り口”が浮かんでくる。女性を口説く場合に、女心を知らずして突破口は見出せないのと一緒なのかもしれない。

聞きまくり調査の重要なポイントは、ワン・トゥー・ワンで聞いていくことだ。グループ調査だと、他人の目を意識して本音を語らなくなる。フリーマガジンの「R25」が成功したのも、「日本経済新聞を取ってはいるが、内容がよくわからず、ほとんど読んでいない」「800字程度の記事なら読みたい」という若手ビジネスマンの本音を引き出せたからだという。

もし、オフィスの外に出て調査ができないというのなら、近くにいる同僚や部下に聞いてみたって構わない。「あれどう思う」と一声かけることで、新しい切り口が見つかるはずだ。一番まずいのは、「消費者なんてこんなもの」と知ったかぶりや思い込みをすることなのだ。