売られた喧嘩は全部買う、相手を言い負かす

論争に勝たないと気が済まない性格も災いした。弁護士は法廷論争で負けたらお金にならないが、一般社会では白黒つけなくてもいいことがいくらでもある。

従軍慰安婦問題で炎上しはじめたとき、「やめておけ。道州制とこの議論はまったく関係ない。大阪市長の立場とも関係ない」と諭したのだが、「いや、もうちょっと説明すればわかる話だから」と聞かない。結局、説明すればするほど深みにはまっていった。

売られた喧嘩は全部買うし、相手を言い負かしたがる。職業病なのだ。そのことに途中で気づいて、「この人はリーダーにはなれない」と思った。

大きな流れの中で自分がやりたいのか。そのために目の前の戦いをどうやって展開していくか。不必要な戦いはどうやって関与を避けるか、という戦略の基本がまったくわかっていない。目的達成のためには無駄な戦いで消耗しないことが大事なのだ。しかし、橋下市長は目の前の戦いに全部勝とうとする。今回も大阪都を批判する京都大学の教授とネット上で大乱闘をやっていたが、議論を見る限り一般大衆にとってはどちらでもいい水掛け論であった。こうしたことに精力を使い果たすのが彼のかなり深刻な限界だ。

個人の能力は素晴らしい。頭の回転は速いし、議論は緻密。マスコミに対する発信力も抜群。彼とメールのやり取りをしていると、朝の4時とか5時とか、とんでもない時間に巻物のような長さのメールを寄越してくる。しかも誤字脱字がほとんどない。本当に政治家にはもったいないぐらいの能力だ。こちらから送った長い論文も数日のうちに読破し的確なコメントを返してくる。全国政党「維新の会」の共同代表になる前、すなわち府知事や市長職に集中していた頃の業務処理能力はまさに圧巻であった。

市長の任期終了後に政界引退するそうだが、彼の性格からすれば本当に辞めるだろう。自分の政治の原点は道州制であり、それが否定された以上は政治家を続ける意味がないというわけだが、それは錯覚だ。今回の住民投票で問われたのは道州制の是非ではないのだから。

政治を離れたら、もっと人間力を磨いてほしい。市長を辞めても注目度は高いだろうが、ちやほやされているうちはなかなか変われない。