脳は気まぐれである

そもそも脳は時間をどのように把握しているのだろうか。諏訪東京理科大の篠原菊紀教授は言う。

「時間の管理には2つあって、ひとつは日の光など、自然のリズムを感じる体内時計が埋め込まれていて、そこで起きる化学物質の代謝のサイクルからいろんなリズムを感知していることは知られています。いわば生物学的な基盤。

もうひとつは生物学的基盤をベースに、経験に応じて脳の中の一種の記憶システムとして時間が組み込まれていると考えられています。人間独自かもしれないのは展望的記憶といわれるもの。これから何が起きるかを考えることができ、かつそれを記憶できる力。この展望的記憶を持つがゆえに計画性や次に何をやるかというのが出てくる。ただ、展望的記憶は時間を無限にとらえるところがあって、後でやればできそうな気がするとか、結構適当です」

適当といえば、過去を振り返ったときの時間。長く感じたり短く感じたりするのはなぜだろう。

「心拍数が高いときは、それだけ頭の中で時間は速く過ぎているので、瞬く間に1時間経ったと感じる。でも、その時間はよく覚えていて充実した感じもする。逆に1時間がすごく長く感じるときは、後から振り返ると、記憶に残っていないので、あっという間に過ぎた感じに変わる。加えて嬉しいとか悲しいとか、大きな感情を伴う記憶、印象に残った経験は、ついこの間のように感じるし、そうじゃないことは遠い昔に感じるのです」(吉田院長)

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脳が感じる時間の長さ

年を取ると1年が短く感じるという実感はあるだろう。〈時間の過ぎるスピードは年齢の逆数に比例する〉というジャネーの法則。54歳から55歳の1年は、24歳から25歳の1年の2倍の速さで過ぎるというあれだ。

「19世紀に経験則から生まれた法則ですが、現代の脳科学で分析しても、結構いい数字なんです。1年間の記憶が自分の記憶全体の中でどれくらい占めているかで感じ方は変わってくる」(吉田院長)