2人の息子が小学校を卒業するまでと決め、家庭内で通用する“紙幣”を発行していた父親がいます。後に禅僧に転身することになる父親が、銀行マン時代に考案した、マネー&情操教育の試みでもありました。

親の感動の度合いを伝える道具

生田一舟
大手信託銀行勤務中より臨済宗系寺院で修行を始める。2012年得度、13年伊豆小室山禅堂堂長となる。企業破たんやお金に翻弄される人々を目にし、お金に操られるのではなく自分で歩んでいける子になってほしいと、家庭内通貨トウサン発行。

きっかけは、幼稚園の頃から手先が器用だった長男が、新聞紙や段ボールなどを使い、いろいろユニークな工作をしては、私を感動させてくれていたことでした、と生田一舟(いっしゅう)さん(48歳)は振り返る。

「でも、言葉にすると『すごいアイデアだね』とか、『素晴らしい』程度でほかに言いようもないし、感動の度合いの違いも、子供にうまく伝えられませんでした。そこで最初は直感的に、子供にご褒美のチョコレートでも渡すような軽いノリで、家庭内通貨『トウサン』を始めたんです」

生田さんの現在の肩書は、臨済宗伊豆小室山禅堂堂長。静岡県伊東市にある小室山の麓の、閑静な住宅街にその禅堂はある。一昨年、銀行を早期退職した彼の、ここが現在の生活拠点。「一舟」という名前も、お坊さんになってからのものだ。今は禅を通じた経営の助言、本の執筆や講演会などを行っている。

話を「トウサン」に戻すと、現在18歳の大学生である長男が、幼稚園の年長だった頃に始め、中学生になった次男も含め、2人が小学校を卒業するまで続けた。

生田さんが作った家庭内通貨トウサンは、1枚が約3cm×6cm大。生田さんの笑顔と黄色い花との組み合わせがユーモラスで、温かみもある。

「私が『よくやったね!』と言いながら、満面の笑みで子供に手渡すわけですから、トウサンには愛情がたっぷりと入っているんです。長男も、自分の頑張りがトウサンによって具体化するためか、とても喜んでくれました。幼稚園の年長だった彼が、つぶらな瞳で『お父さん、ありがとう!』って言ってくれたときのことは、今も鮮明に覚えています」

トウサンの写真にも負けない笑顔で語る生田さんを見ていると、こちらの頬までゆるんでしまいそうだ。