2人の息子が小学校を卒業するまでと決め、家庭内で通用する“紙幣”を発行していた父親がいます。後に禅僧に転身することになる父親が、銀行マン時代に考案した、マネー&情操教育の試みでもありました。
親の感動の度合いを伝える道具
きっかけは、幼稚園の頃から手先が器用だった長男が、新聞紙や段ボールなどを使い、いろいろユニークな工作をしては、私を感動させてくれていたことでした、と生田一舟(いっしゅう)さん(48歳)は振り返る。
「でも、言葉にすると『すごいアイデアだね』とか、『素晴らしい』程度でほかに言いようもないし、感動の度合いの違いも、子供にうまく伝えられませんでした。そこで最初は直感的に、子供にご褒美のチョコレートでも渡すような軽いノリで、家庭内通貨『トウサン』を始めたんです」
生田さんの現在の肩書は、臨済宗伊豆小室山禅堂堂長。静岡県伊東市にある小室山の麓の、閑静な住宅街にその禅堂はある。一昨年、銀行を早期退職した彼の、ここが現在の生活拠点。「一舟」という名前も、お坊さんになってからのものだ。今は禅を通じた経営の助言、本の執筆や講演会などを行っている。
話を「トウサン」に戻すと、現在18歳の大学生である長男が、幼稚園の年長だった頃に始め、中学生になった次男も含め、2人が小学校を卒業するまで続けた。
生田さんが作った家庭内通貨トウサンは、1枚が約3cm×6cm大。生田さんの笑顔と黄色い花との組み合わせがユーモラスで、温かみもある。
「私が『よくやったね!』と言いながら、満面の笑みで子供に手渡すわけですから、トウサンには愛情がたっぷりと入っているんです。長男も、自分の頑張りがトウサンによって具体化するためか、とても喜んでくれました。幼稚園の年長だった彼が、つぶらな瞳で『お父さん、ありがとう!』って言ってくれたときのことは、今も鮮明に覚えています」
トウサンの写真にも負けない笑顔で語る生田さんを見ていると、こちらの頬までゆるんでしまいそうだ。